●教えてドクター |
名古屋大学大学院医学系研究科 精神医学分野教授
尾崎紀夫 先生
「睡眠とは」というところからお話します。眠っている時間帯は生き物にとっても極めて無防備な状態です。身の危険に繫がる生き物が周りに来た時、例えばネズミにとって猫が近くに来たという時は、睡眠中であれば生命の危機に瀕します。つまり生き物の生存にとって睡眠は不利益な状態です。ところが生物が進化するにつれて、睡眠も進化してきました。生き物にとって不利益をもたらす睡眠が進化するということは、睡眠はどんな意味を持つのでしょうか?一つは身体全体にとって大変重要な意味があります。例えば睡眠中は細胞の新陳代謝が進んだり、血液を作ったり、あるいは成長ホルモンが出るようになる等、の意味があります。もう一つ、脳にとっても睡眠は重要な意味があります。昼間、例えば誰かとお話をすると、その時に脳はいろいろ記憶します。睡眠にはその記憶を整理して定着させるという働きがあります。もう少し詳しく言いますと、昼間に我々は記憶するために、脳の中の細胞が繋がりを作ります。これが記憶の細胞レベルの基本ですが、細胞と細胞の繫がる部分が物理的に太くなっていきます。昼間の間に太くなった細胞はエネルギーを沢山消費するようになってしまいます。我々の脳は体の中の数パーセントの重さしかないのですが、エネルギーは全体の20%も使っています。一方で昼間細胞が大きくなってどんどんエネルギーを使うようになってしまったら困ります。そこで眠っている間に神経細胞のつながりを少し弱めて、エネルギーを使わないようにしています。また起きている間に神経細胞のつながりを強くすることによって、情報をたくさん処理できるようにします。必要な情報と同時に不要な雑音、ノイズも拾ってしまいます。したがってノイズを拾いすぎないように、エネルギーを使いすぎないように、眠っている間にある程度この細胞のつながりを緩めることによって、昼間にかかった脳の働きを少し弱めてやり、記憶を上手く整理をするという睡眠の働きがとても大事です。すなわち体にとっても脳にとっても睡眠がとても重要です。