健康ライブラリー

健康ライブラリー 2019年10月27日

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●教えてドクター 
★10月のテーマ「ゲノム医療」

名古屋大学 医学部附属病院 化学療法部教授
安藤雄一 先生

遺伝子パネル検査は全ての方に同じように結果が出るわけではなく、治療までたどり着く方はわずかです。遺伝性腫瘍の問題等もありますし、そして何よりもコンピューターで色々な遺伝子を解析して結果が出てくるのですが、それをどのように患者さんの治療に生かすかという大事な部分は、専門知識や経験が必要です。現在の制度では、がんゲノム医療の中核拠点病院や、この中京地区ですと名古屋大学になりますが、その連携病院、多くの場合は国が指定するがん拠点病院になりますが、そういった病院でまずパネル検査の実施が保険で認められています。中京地区ですと20ぐらいの病院です。そして、エキスパートパネルと言って、得られたゲノム情報や個々の患者さんの臨床情報をまとめてカンファレンスを行います。そのカンファレンスでは、もちろんがん治療の専門家も入りますが、遺伝カウンセラーや病理の専門家、遺伝学の専門家、バイオインフォマティスクの専門家等、色々な職種が専門知識を出し合って一人一人の患者さんの治療方針を考えます。この制度は技術も新しいのですが、制度も始まったばかりです。私たちも専門家とはいえ、制度や医学的なことについて勉強しながら日々医療を行っています。そのような状況ですから、患者さんはもっと不安になっていると思います。そういった時に患者さんは、周りの方、ご家族や友人の方等に相談をしたりしていただきたいです。またそういった周りの方も患者さんをサポートしてあげて欲しいと思います。疑問や心配事、気になることを一人、あるいは家族だけで抱え込まず、専門医の先生のところで的確なアドバイスをいただくことが重要です。
 
医療コラム ~医療安全の本質とは?
論説室 後藤 克幸

先月ある病院で、心臓の手術を受けた患者さんが、容態の悪化を知らせるモニターのアラームが病室で鳴っていたにもかかわらず、対応してもらえずに亡くなるという悲しい医療事故がありました。患者さんは70歳代の男性。去年6月に心筋梗塞で緊急入院しカテーテルで心臓の血管を広げる治療を受けたのですが、10月に再発して2度目のカテーテル治療を受けました。その後、一般病棟に移ったところで、容態が悪化しました。心電図モニターが、異常を知らせるアラームを鳴らしていたのですが、誰も対応しませんでした。患者さんが心停止しているのを、24分後に看護師さんが発見し、救命措置が行われましたが翌日に亡くなりました。

なぜ、スタッフはアラームに対応しなかったのでしょうか?この問題を重く受け止めた病院は、外部の専門家も加わった「医療事故調査委員会」を開いて、病院全体で、今後の医療の改善に結びつけるための検証を行いました。その結果「事故が起きた病棟ではアラームが頻繁になる状況だった」という重大な問題点が浮かび上がりました。病棟では、およそ半数の患者さんにモニターがつけられ、経過観察で良い方から、緊急対応が必要な方まで、混在しながらアラームは日常的に頻繁に鳴る状態だったのです。その結果、事故当日、複数の看護師さんが、この患者さんのモニターのアラーム音を聞いていたのですが、「誰かが対応しているだろう」と、皆が思い込んでいたというのです。必要な危険を知らせるのがアラームなのに、頻繁に鳴り続けていたら、もうアラームではなくなってしまいます。

医療事故調査委員会は、「もし、この患者さんに対して早い段階でスタッフが異変に気づいて治療を開始していたら、救命率が上がっていた」と指摘しました。そして、「アラームが日常的に頻繁に鳴る状況を変えることは、技術的に可能であり、アラームの設定を改善すべきである」と、病院に対して提言しました。

今回の医療事故は、この病院だけの問題ではなく、他の多くの医療機関にとっても、重要な教訓を残した事故と言えます。今回のように、外部の委員も含めた公正な医療事故調査委員会による検証が行われ、情報公開されるというのは、とても重要なことです。一つの医療機関だけの問題ではない貴重な情報が、多くの関係者に共有され、今後の医療の安全の向上に生かすことができるからです。
 
 

 
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