健康ライブラリー

健康ライブラリー 2019年8月25日

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●教えてドクター 
★8月のテーマ「慢性疲労症候群」

愛知医科大学 医学教育センター長/愛知医科大学メディカルクリニック総合診療科
伴 信太郎 教授

明るい話を申し上げますと、100人の患者さんに対して色々な治療の中で一発で効く決定打は無いのですが、その方の症状に合わせて色々な日常生活についてのアドバイスをしたり、お薬を出したりしますと、その中で2割位の方が今まで学校や仕事へ行けなかったのが行けるようになります。それから5割位の方が最初受診した時の状態よりもある程度良くなります。それは必ず学校に行けるようになるとか、仕事に復帰できるまではつながらない状態です。それらを足すと大体7割から7割五分位の方は良くなります。逆に2割五分位の方は全く良くなりません。現在、慢性疲労症候群に対する治療の決定打が無いですし、慢性疲労症候群と診断される方には色々な原因があるようです。これはこれからの研究課題です。現在行われている治療の一つは飲み薬です。飲み薬にも決定打が無いのでビタミンCを飲んだり還元型コエンザイムQ10を服用したりしていただいています。またよく使われるのは漢方薬です。慢性疲労症候群というのは線維筋痛症と言われる、あちこちが痛くてたまらないという病気と合併する人が3/4位いると言われています。その方は痛みをコントロールしてあげると、随分QOL(生活の質)が良くなります。また前回申し上げたようにやはり体を動かすことが大切です。しかし「10分ウォーキングをしなさい。」というような処方はできません。ですので、ちょっと元気かなという時に、動きすぎない程度にラジオ体操やヨガをやってみたりするのが良いと思います。痛みがあれば痛みを取り、動ける時は体を動かし、緩やかに診断しながら薬を処方するようにするということが大切です。また、うつ病やうつ状態の患者さんが「慢性疲労症候群ではないか?」と言って相談にみえることがありますが、その中で3人に1人位はうつ状態、うつ病という診断が適切な場合があります。この場合はとてもお薬が効きますので、「自分は精神病ではない。」と思われずに、きちんと精神科の先生や心療内科の先生にかかった方は良いです。慢性疲労症候群の専門医は精神科の先生と連携しています。私は現在、愛知医科大学メディカルクリニックで診療していますが、名古屋大学の総合診療科でもこの慢性疲労症候群の患者さんを診ています。
 
医療コラム認知症対策の基本とは?
論説室 後藤 克幸

 国は新しい認知症対策として今年の春、「認知症の人を10年で1割減らす。」といった数値目標を公表したのですが、各方面からの批判を受けて撤回しました。日本には、2015年に立てられた「新オレンジプラン」という認知症の国家戦略がありますが、これを強化するための新しい対策として、今回新たに発表されたのが、予防に力点を置いた数値目標でした。70歳代で認知症を発症する人の割合を、今後10年で約10%減らすという目標を打ち出したのです。認知症対策で国が数値目標を打ち出すのは初めて、ということで注目が集まりました。

 しかしこれに対して、「認知症の人と家族の会」等の関係団体から批判が続出しました。例えば、「頑張って認知症の予防に取り組んでいたのに認知症になる人もいる。こういった人は、数値目標通りにできなかったとして、努力不足という扱いになってしまうのか?」「認知症に対する偏見や差別が生まれかねない」という批判でした。

 厚生労働省はこうした声を受け止めて「認知症は老化に伴って誰もがなりうるものであり、認知症の人とそうでない人が、同じ社会で一緒に生きていくという“共生”が対策の基本であります。」という釈明を発表して数値目標を取り下げました。今回、国があえて数値目標を導入しようとした背景には、現在およそ500万人といわれている認知症の人の数が、今後数年で700万人に増えるという推計があり、医療・介護にかかる費用をなんとか抑えたいとの思惑があったと思われます。しかしこの数値目標というのは、一旦掲げますと数字が独り歩きする恐れもあります。例えば、国の数値目標を地方の自治体が強く意識し過ぎますと、「わが自治体では認知症の人をこれだけ減らせました!」とアピールしたり、「わが自治体は他の自治体より一年早く数値目標を達成!」などと発表したり、自治体が数値目標の達成を競いあうようなことが起きるかもしれません。

 認知症の予防というのは、生活習慣の改善や適度な運動、社会参加を心掛けるなど、個人個人の取り組みの積み重ねです。社会全体として、認知症の数を減らせるかどうかは、そうした取り組みの積み重ねの結果であって、目標の数値化は問題の本質ではありません。誰が認知症になっても自分らしい人生を、尊厳を保って生きられるように、家族や地域が温かく積極的にサポートできる社会を構築すること・・・それが、認知症対策の基本中の基本だと思います。
 
 

 
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