●教えてドクター |
名古屋大学医学部 地域医療教育学講座
岡崎 研太郎 先生
今は核家族のご家庭が多く、たとえ高齢のおじい様やおばあ様がいたとしても、施設に入っていたりして、身近には高齢者の方がいないという学生が多くいます。そうすると、死というものが若い医師には非常に縁遠いものとして感じられ、実感してもらうことが難しくなっています。一方で、高齢者においては治療の方針が一つに定まらないことも多く、臨床現場では私たちも日々悩みながら診療をおこなっています。こうした現状を踏まえ、医学教育においても、知識を教員から学生へ一方向的に伝えていくという知識伝達型に代わり、実際に正解の無い問いに対して一緒に考えていくという参加型、実習型の教育の時間が増えています。例えば施設に入所している90歳の男性が38度の熱を出したという場合、このまま施設で限られた抗菌薬を使って治療するのか?それとも一旦病院に移してもう少し強い治療をしていくのか?肺炎でさらに呼吸が苦しくなった時に、人工呼吸器につなぐのか、つながないのか?こうした問いには、はっきり言って「これが絶対に正しい。」という正解は無いと思います。しかし今の医学生は、大学入試から国家試験に至るまで、唯一の正解があってそれを探すというトレーニングをずっと受けてきています。医療の現場ではそうではなくて、色々な正解の可能性がたくさんある中で、ご家族やご本人と相談し、決断して何かをしなければなりません。それが正しいという保証はどこにも無いのですが、覚悟を持って決断をする能力や態度を養っていくためにも、参加型、実習型の学習が必要になってきています。模擬患者さんにも協力してもらい、現場に即した教育が行われています。