健康ライブラリー

健康ライブラリー 2018年12月30日

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●教えてドクター 

★12月のテーマ「心不全」

名古屋大学医学部 循環器内科
室原 豊明 先生

心不全の予防のために、現在たばこを吸っておられる方は禁煙が最も重要です。現在日本人の喫煙率は約17%ですが、これは逆に5人に4人以上の方は吸っておられないということです。吸っておられる方は是非やめていただきたいです。それ以外には高血圧を予防する目的でバランスの良い食事を心がけることが大切です。1日の食事に主食、主菜、副菜がバランス良くそろっていることが理想です。あとは体の筋肉を作るたんぱく質である肉、魚、卵、大豆製品等は心がけて摂っていただきたいです。一方でご飯や麺類やパン等は炭水化物になりますので、摂りすぎますとカロリーオーバーになって肥満の原因になります。また血圧を上げる最大の要因の一つは塩です。高血圧の方や心不全になりそうな方は、できれば1日6g未満の食塩に制限していただきたいです。特に汁物は塩分を多く含んでいます。味噌汁は1杯で1.5g、ラーメンはすべて食べてしまうと8gになってしまいます。これだけで1日の容量を超えてしまいます。ですからこういった物は薄口にしていただくか、ラーメン等はスープを残していただくと良いと思います。タバコのリスクですが、タバコを吸うと体の中に炎症がおきてしまいます。本人には気がつかないくらいの弱い炎症ですが、タバコを吸わない人に比べると吸う人は炎症の時に上がって来る白血球の量が多くなります。この上昇した白血球は、動脈硬化をより強く引き起こします。またタバコの煙の中に入っている活性酸素という物質が炎症を引き起こして動脈硬化を進めるとも言われています。さらにタバコを吸いますと一酸化炭素が体の中に入ります。一酸化炭素は酸素と競合してヘモグロビンにくっつきます。ヘモグロビンは血液の中で酸素を運んでいるのですが、一酸化炭素がこれを邪魔します。ですからタバコを吸って一酸化炭素が体の中に入ると血液による酸素の運搬を横から妨害してしまい、そのために心臓がより無理をしてしまうため心不全が悪化します。現在タバコを吸っておられる方は、禁煙は必須です。もう一つの心不全の予防は適度な運動です。いわゆる有酸素運動といって、酸素を十分取り入れながらゆっくり行う運動です。これには心臓のリハビリ効果があります。少し息が切れるな、といった程度の運動をしていただくと、心臓がそれに順応しようとしてゆっくり機能を上げていってくれます。急に強い運動をするのは逆効果ですが、ほんの少しきつい程度の運動を毎日か週に3日程度行っていただくと、それに体が順応しようとして心臓が少しだけがんばってくれます。これがリハビリ効果を生んで心不全の予防になります。
 

●医療コラム ~コミュニケーション能力重視の医学教育を!

論説室 後藤 克幸

イギリスの医学系大学の医学教育の現場を今年の秋に取材しました。
日英両国とも、超高齢社会の「新しい医療のカタチ」を模索している点が共通しています。
超高齢社会では、病気の予防や生活習慣の改善などが重要な医療課題で、そのためには、従来の「病院での治療」中心の医療から、「地域での健康サポート」重視の医療へ・・・転換が求められています。

◆「新しい医療のカタチ」は多職種が連携するチームワーク医療
「病院での治療」中心の医療では、医師が中心でリーダーシップを発揮する医療でしたが、「地域での健康サポート」重視の医療は、医師だけではなく、看護師、薬剤師、理学療法士、管理栄養士、介護のケアマネジャーやヘルパーといった多職種の専門家が対等に連携して患者・家族をサポートする医療です。そうした新しい医療の担い手を育成するため、イギリスの医学教育では、チーム医療のコミュニケーション能力を重視した教育が進んでいます。
医学部、看護学部、薬学部・・・バラバラな教育では限界があるため、学部の壁を超えて、多職種の学生が一堂に集まって行なうグループ討論が日常的に取り入れられているのです。

◆学部の枠を超えた学生たちがひとつの教室に集まりグループ討論
医学部の学生、看護学部の学生、薬学部の学生、リハビリを担う理学療法学部の学生など、さまざまな学部の学生がひとつの教室に集まり、7~8人のグループに分かれて討論します。
冒頭、先生が、討論の課題を示します。例えば、長年、牧場を経営してきた60歳代の男性。がんで入院しました。検査結果のデータは・・・家族の状況は・・・本人の人生に対する価値観は・・・などの資料を配って、「この患者にとって、最も優先されるべきことは何かを議論しなさい」・・・なんていう感じです。異なる医療職の立場から意見を出し合います。
従来の医療現場では、医師が上から目線で議論をしがちでしたが、これからは、みんな対等な専門職として患者に向き合わないといけません。看護の立場、薬の専門家の立場、生活を支える介護の立場・・・それぞれ専門の立場が違えば、発想も違って当然でしょう。自分の専門領域の発想や知識では対応しきれないことを、他の専門職に質問したり、アドバイスを求めたり、意見や提案をしてもいいんだよ・・・対等なプロフェッショナルとして、堂々と意見を言い、相手の意見を聞く・・・当たり前の価値観を、こうした医学教育を通して、若い学生たちが学んでいきます。
日本でも、こうしたスタイルの医学教育は、一部で始められていますが、まだまだ、イギリスのように、日常的な教育としては広まってはいません。
超高齢社会に対応する「新しい医療のカタチ」が求められている点では、イギリスも日本も同じ状況です。日本でもぜひ、こうした多職種の専門職たちが対等なチームワークを構成できるコミュニケーション能力を育てる医学教育が広まってほしいと思います。
 
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