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【エッセイ】秘伝と垣根と道場破り

そんなわけで私が某サイトの『秘伝!オリーブオイルでペペロンチーノを作るとプロの味に』という見出しを見て、驚きを隠せなかったコウノです。
この書き方は鴻上尚史さんが「鴻上夕日堂の逆襲」でやっていた書き出しですね。秘伝かよ、最近はアレのためなら何でもありかインターネット。

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秘密だけど、常套句


料理レシピの世界に於いて「秘伝」という言葉は常套句というか、定番です。
一子相伝、その店だけのレシピ。英語で言えば『secret』とか『secret formula』なんて言い方をします。英語だとなんとなくですが、魔術とか手品といった『技』という感じもします。実際に日本語で検索すると、秘伝と名のつく古流武術・武道の雑誌のサイトが上位にくるようです。間違いなく秘伝です。

でも、カップ麺でもカレールーでも『秘伝のなんちゃら入りすぎ問題』はあります。袋めんを開けたら『秘伝のタレ』、続いて『秘伝のスパイス』。200円前後で2つの秘伝。秘伝大放出、秘伝からの秘伝。秘伝&秘伝。古流武術と違って弟子入りもせず、自宅のキッチンで秘伝を私たちは授かっております。
私たちは秘伝と名のつくものに、もっと感謝の意を表してもいいのではないでしょうか。誰に問いかけてますか。

ラジオ界、一人介せば、皆知り合い


こうした常套句、放送の世界…ラジオの世界でもありますね。
とりわけ、気になっているのが『放送局の垣根を越えて』という言葉です。特番とか、キャンペーンとか、そういう時に各局の出演者が揃ったり、制作者が一堂に会したりという時に、よく用いられる言葉です。

垣根。一体どこの放送局に垣根があるんでしょうか。垣根は今どきないだろう、植え込みくらいは、あるけどね。

いや、物理的な話をしているわけではありません。

穿った見方をすれば「垣根を越えた」って言いたがる人は、垣根を越えたくないオトナがいるんじゃないのかなぁと。まぁ、放送局、それぞれの事情がありますって、こんなことを放送局が運営するサイトで書かせるんじゃないよ!
実際、ラジオの世界はテレビと違って小所帯です。東京のラジオの世界でさえも日々よく聞く話なんですが「ラジオ界、一人介せば、皆知り合い」という規模です。これホントよ。

川はボートで渡ればいい


つまり、ラジオの世界。よしんば垣根があっても、極めて近い世界です。私も昨年、そんなCBCラジオに電話をかけました。
「全国の面白ラジオ番組を紹介する番組やるんですけど…おもてなし武将隊の番組、どうですか?」と。
そして依頼から交渉、放送まで垣根は見かけることはありませんでした。もちろん、申請書類は書きます。

ただ、違和感があるのは、A放送局の番組に出演しているフリーのアナウンサーやタレントが、B放送局に出演した時に「垣根を越えた!」という言葉が使われることです。
もちろん、番組の看板背負ってB局に出るとなると「垣根を越えてやってきた」のかもしれませんが、私は「この人はタレントさんだよ、局のアナウンサーじゃないんだよ」という思うのです。彼らはお座敷かかればどこだって行くのです。言い換える言葉を探すならば、垣根を越えたというより、他流試合かな、それこそ武術の世界のようです。それぞれの番組、喋り手も作り手も「秘伝」は持っています。

かつて、1970年代の名古屋のAMラジオ界を指して「広小路通には大きな川が流れていて」(「つボイノリオの聞けば聞くほど本」2004年 Gakken)と表現したのは兵藤ゆきさん。名古屋のラジオ、そんな時代もあったようです。
でも、大きな川はボートを運んできて渡ればいい。垣根は、そもそもないんだから。他流試合、お越しの際は事前にご連絡いただき、当日は受付で担当者をお呼び出しください、入館証を発行いたします。最後は段取りかい。

道場破りは、面白くやりましょう。

河野虎太郎
放送作家。先日「1時間半の特番」と聞かされて構成を引き受け、番組表を確認したら、2時間35分の番組だったので慌てる。某ハンバーガーショップでの深夜料金くらい慌てた。
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