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【エッセイ】ラジオスタジオで愛されるお菓子と朝の一杯

あれは忘れもしない25時間ほど前…忘れる方がどうかしとるわ!
某放送局の中で仕事を終えて、夜7時からの番組収録に行くまで、スタッフと談笑していたところに1通のメール「何時頃の到着になりますか?○○○さん(出演者)も待ってますよ」。

あれ?もしかして……。

私、「17時」からの番組収録を「午後7時」と間違えていました。

どっしぇー!

ぶっしゃー!

椅子から立ち上がり、エレベーターに飛び乗り、局の玄関まで全力疾走。地下鉄かタクシーか籠かコンコルドかを3秒考え、目の前に見えたタクシーが絶対早い、籠とコンコルドを呼び出すアプリは入れてないことに気づき、タクシーに飛び乗り次の現場へ。運転手さんアノ車追ってくれ状態の法令遵守でスタジオ到着。幸い、収録はパーソナリティーとゲストとのお話が盛り上がっていたようで、最悪の事態は免れました。

置いてあったチョコレートを一口、水を飲んでスタジオへ。この模様は皆さまお聞きのCBCラジオで5月あたりに……そんな様子はおくびにも出さず喋っています、ハイ。

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スタジオの「お菓子ルール」大前提


そんなわけで、収録スタジオにはちょっとしたお菓子が用意してあることが多いのです。常に弁当が積まれていて、あるいは太っ腹なプロデューサーがドーンと出前を取ってくれるなんて現場は、昨今ほとんど見かけません。いや、見かけたいものです。

でも、毎度毎度腹いっぱいになってもしょうがないし、何より満腹になって眠くなっては仕事になりません。だから、ちょっとしたお菓子です。
いつも置いてあるものだから、飽きられても困ります(って食べるけどね)。スタッフは知恵を絞って、地元で手に入らないものや、新作のお菓子、さらには話題になっているお菓子を用意する時もあります。
でも、どんなにブームのお菓子でも、大前提があります。それは「個別包装(個包)」であることです。

ラジオ番組のスタジオで、お菓子を食べるのはどんなシチュエーションか。

基本「合間にパクつく」が原則。本番前の準備で、食事をする暇もなかったディレクターが煎餅をかじり、眠気を覚ますべくAD(アシスタント・ディレクター)がチョコレートを頬張り、出演者が交通情報とCMの間に飴を舐めたりと、皆さんそれぞれのタイミングで食べるのです。
だから、個包じゃないお菓子だと湿気ったり、カサカサに乾いて(特にスタジオは機材を守らなきゃいかんので乾燥してるのです)しまったお菓子は好まれないことが多いのです。

スタジオは機材が優先です


で、何より大事なのが、機材やCD等のメディア類に食べカスを詰まらせないために、また資料や台本や進行表を汚さないためにも、手を汚さず、袋の部分を持って食べることのできる、小さな個包のお菓子が、スタジオ周りでは重要なのです。
だから粉が飛び散るようなお菓子は好まれません。

ちなみに、喋り手のいるブース内、ディレクターやミキサーのいるサブ(副調整室)では、原則飲食禁止のスタジオがほとんどです。もちろん、番組で商品を紹介する場合は別ですが、そのコーナー・話題が終わったら、速やかに撤収するのがルールです。

ですので、スタジオの入り口付近に置かれた小さなテーブルや、打ち合わせスペースにお菓子の入ったかごや、飲物用の紙コップが置かれてあったりします。

お菓子、飲み物…あとこれも大事


こうして、個包のお菓子をスタッフが買ってきます。ブ社の『ルなんとか』とか、カ社の『ハッピーなんちゃら』、フ家の『なんとかマーム』あたりが定番。
あと、某乃屋の『なんとか揚げ』あたりが好まれますが、このあたりは局や地域によって風習・定番・ルール・関係者の好み・先輩の押し付け・構成作家の「アレねぇとダメなんだよなぁ」というエラソーな一言などで、違いが出てくるようです。ラジオ業界、明るく楽しい職場です。

そして飲物の紙コップ。これも資源を無駄にしてはいけません。
飲み終わるたびに新しい紙コップを出したら、予算を管理する人に怒られ、自分が使った紙コップを全部糸電話にさせられたり、頭に乗せてその格好で局内を練り歩き、「ほーら、ウサギさんだよぉ~ん」とか言わないと許してもらえません。ラジオ業界、明るく楽しい職場です。いや、本当に無駄遣いはよろしくありません。

「だからね、お菓子と飲物と紙コップを置いたら、横に赤ペンを置いておくんですよ」というのは、私の先輩。そうです、紙コップには名前を書くのです。そうすれば無駄遣いは無くなります。
お菓子、飲物、赤ペン(透明のプラスチックのコップの場合があるから油性)の3点セットを用意することで、ラジオスタジオ周りのケータリングが完成するのです。

意表を突かれた『朝の一杯事件』


こうしたものは、どこの放送局であろうと大差はないと思うのですが、一度だけ本当に驚いたことがありました。
いわゆる『全国の人気ラジオ番組大集合』的な特番の取材で、あまりご縁のないラジオ局に伺った時のことです。

その番組は早朝に始まるので、陽が昇る時間に局に伺い、まずは打ち合わせの席で「本日は見学させていただきます、よろしくお願いします」と挨拶。すると、早速ADの方がコーヒーをいれてくださいました。そして、生放送が始まると今度はスタジオの隅っこで見学している私に日本茶が、もちろんスタッフにも配られます。

なるほど、最初はコーヒーで目を覚まして、番組が始まると日本茶でリラックスしながら仕事を進めて、ちゃんとスタッフの動きも決まっていて…。さすが長寿番組と思って、ありがたくお茶をいただきました。濃さもちょうどいいじゃないですか。

さらに30分後、ニュースの時間に、また飲み物を持ってきて下さいました。至れり尽くせりというか、よその放送局の番組で来た人間まで、そこまでやって下さるのかと感服。小声で「ありがとうございます」と言い、中身を見ずに飲み物に口をつけたところ、しょっぱい。
え?何?思わず、紙コップの中とADさんの顔を見ました。

「ええ、ウチはこの時間は、味噌汁なんです」と。

当然、驚いているのは見学者の私だけ。ADさんが味噌汁を配る現場は初めてですよ。が、スタッフもみんな、報道スタジオから流れるニュースを聴きながら、一杯の味噌汁を飲んでいました。そういう番組もあるんです。

多分、コーヒーよりも、目が覚めたと思います。

河野虎太郎(放送作家)
人が喋る言葉を書く仕事。radikoで地元のスーパー銭湯のコマーシャルが流れると、その名前を検索する派。道路交通情報に出てくる地名・道路名は行ったことない所に想いを馳せる。「名二環」とか。
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