北野誠のズバリ

水害を防ぐのは不可能?「流域治水」という新しい考え方

2000年9月11日夕方から12日未明にかけて、東海地方ではこれまでにない大量の雨が降り、特に都市部で甚大な被害が発生、後に「東海豪雨」と呼ばれました。
中でも名古屋市西区や西枇杷島町では庄内川の越水、新川の破堤、内水氾濫により広範囲で浸水被害がありました。

それから20年、新しい防災対策として「庄内川流域治水協議会」が設置されました。

9月12日放送『北野誠のズバリサタデー』では、「流域治水」とは何か、そしてどのような取り組みがなされているのかについて、名古屋大学大学院工学研究科教授の戸田祐嗣先生にお話を伺いました。

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災害に対する新しい取り組み

今年の7月、岐阜県から愛知県を流れる庄内川流域の水害対策として、国や県、市町などが一丸となって取り組む「庄内川流域治水協議会」が設置されました。

東海豪雨では庄内川が越水し、支川である新川の堤防が決壊したことで大きな被害が発生したことを踏まえ、国は堤防の整備や川底の土砂を取り除く工事などを行ってきました。

しかし、ハード面の整備には限界があるため、今後同じような豪雨が発生した場合でも、氾濫や被害を軽減できるようにと、川沿いの自治体が地域と一体となって事前防災を進める「流域治水」に河川行政を転換することにしました。
 

なぜ新たな対策が必要?

これまでの対策から方針を転換するということですが、その転換にはどのような背景があるのでしょうか。

戸田先生「これまでの治水は、例えば大河川だと治水の目標として、100年か150年に1回程度の大雨を川の中で安全に流せるようにしようというものでした。

それがどんどんあまり経験したことのない雨とか、最近のニュースで聞くようになったと思うんですけど、極端な雨が頻繁に降るようになってきて。

100年に1回っていうのが、25年に1回ぐらい起こるようになってきて、生涯のうちに大洪水に何回か遭ってしまうような状況になってます」

昔よりも災害発生の確率が増えたため、防災の必要性がさらに高まっているということですが、今まではどのような取り組みが行われていたのでしょうか。

戸田先生「さらに川の堤防のかさ上げとか、ダムを造るといったようなことをやってきたわけなんですけど、こういった事業は非常に時間がかかって、まだまだ整備途上の段階にあるという状況で。

明日大洪水が起こってもおかしくない状況の中で、川の中の整備だけに頼って安全を守っていくことが厳しくなっているというのが今の状況です」
 

球技場が水に浸かった!

ダムの建設や堤防の強化は今後も継続して実施されますが、新しい取り組み「流域治水」とは、どんな考え方なのでしょうか。

戸田先生「雨水が川に一気に河川に流れ込むのを防ぐ対策であったりとか、もし仮に氾濫が起きてしまったとしても、被害をできるだけ小さくしたり、あるいは早く回復するような対策を総動員して取り組むような考え方になってます」

これまでの対策は川の中やその周辺だけで行われたものですが、さらに広い地域で対策されるということと、被害を起こさないことに重点を置いていたものが、被害が起きる前提で対策を立てるという違いがあるようです。

「流域治水」という言葉は最近できたものですが、取り組み自体は一部の地域でもすでに前から始まっているそうです。

戸田先生「例えば昨年の台風19号で大雨が降った時に、サッカーワールドカップの決勝戦で使われた横浜国際総合競技場の駐車場に水が流れ込んだニュースの映像が流れました。

これは氾濫が起こったんじゃなくて、鶴見川の洪水を一時的にそこへ貯め込んで、下流の洪水被害を計画的に防ぐ対策で、遊水池と呼ばれる流域治水の中の(方法)」

競技場の周りが水に浸かってビックリしましたが、あれはわざと水を流し込んでいたということになります。
 

遊水池と調整池の違い

遊水池は川沿いに広い球技場を作ったり公園を整備したりする時に、川の水を一時的に貯めこみ、洪水を減らす施設のこと。

また、似たような施設で調整池というものがありますが、これは川から少し離れた所で都市開発をする時に、大雨が降った時に公園などで水を貯めておく施設で、川に流れ込むのを遅らせたり、晴れてからゆっくり流し込んだりします。

ニュータウンを整備する時や新しく公園を整備する際に、セットで作られるものです。

また、森林の保水機能を高めるためによく手入れすべきと言われますが、地面に雨水を染み込ませるために、都市部でもアスファルトではなく緑地を増やすことや、田んぼやため池も治水に有効と言われています。

なお、東京や大阪の地下には、水を貯めておく調節地というものも作られています。
 

危険な場所を減らすには?

危険な場所を示した地図、ハザードマップが自治体などから公開されていますが、危ない場所を減らすために、行政はどのような対策を打つべきなのでしょうか。

戸田先生「氾濫が多いところというのは、降った雨が一気に川に1か所に集まっていくから危ないわけで、例えば東海豪雨の時に1時間に100mm近い雨が降ったんですけど、それぞれの場所では10cmぐらいの深さなんですね。

なので、1か所に集まらないように対策をしていくと。そうすると調整池とか遊水池を作って水を貯めるというふうにして、リスクを下げていくということが大事になってきます」

最近は場所だけではなく、時間も集中して降るゲリラ豪雨が問題となっていますので、ますます必要性が高まっています。
 

私たちができること

戸田先生は現在、矢作川や天竜川の流域治水に関わっておられますが、どのような活動をされているのでしょうか?

戸田先生「まず洪水に対する災害危険区域を指定して、土地の使い方を誘導していったり、住民の方に安全に避難していくための水位計や監視カメラを設置したりといったようなことが検討されてます。

やっぱり一番大きいのは、これまで河川や都市計画、下水道は行政でバラバラにやってきたことで、あるいは国、県、市町村といった形で組織が違っていたものの壁を越えなきゃいけなくて。

そのために流域治水協議会という場がセットされ、それを本当の意味で根本から支えているのが、流域にお住まいの住民の方なので、しっかりと水害のリスクを理解いただくことが不可欠となってます」

リスクを理解するためには、ハザードマップで自分が住んでいるところや働いている場所などを確認した上で、避難場所や避難経路を家族と相談しておくことが大事です。

実際に災害が起きパニックになって、初めて避難方法を考えることはなかなかできません。

さらに、1人1人が水害のリスクを理解することで、水害に強い地域へと発展していきます。

例えば、避難の際に近くで助けなければいけないご老人の方がいることに普段から気づいていれば、みんなで助けることができます。

最後に戸田先生は、「流域治水というのは長い時間がかかる総力戦なので、災害に強い地域を作っていただいて、その下支えが不可欠だと考えています」と語りました。

行政に頼るだけではなく、私たち自身が災害に対して実際にどう行動するのか、考えておくことが大事です。
(岡本)
 
北野誠のズバリ
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2020年09月12日10時31分~抜粋

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