若狭敬一のスポ音

ピンク・レディー「サウスポー」は投手の歌なのに、なぜか打者に使われる件

1月21日放送のCBCラジオ『若狭敬一のスポ音』では、ダイノジの大谷ノブ彦と戸井康成が「日本人が音楽で大切にするもの」についての持論を展開しました。

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桑田佳祐とサザン

大谷「戸井さんといえば歌謡曲。『自分の人生の中で好きな曲』で、いつも答えるのって何ですか?」

戸井「サザンオールスターズだけど、桑田佳祐ソロにしとこう。『祭りのあと』とか」

大谷「大好き!桑田さんだと、それ一番好きかもしれない」

「祭りのあと」は1994年に発売された桑田さんのソロ5作目です。

桑田さんが青山学院在学中に作ったバンドがサザンオールスターズ。ちょっと洋楽にかぶれていた初期のサザンオールスターズも好きだという大谷。

ロックと日本語

サザンオールスターズは音楽番組の中で、歌詞をテロップに出すきっかけを作ったバンドだそうです。それはデビュー曲「勝手にシンドバッド」です。

戸井「しかも今みたいなカラフルなテロップじゃなくて、白の手書きみたいなやつだった」

大谷「何で出たかって言うと、何を歌ってるかわかんないから」

ロックのメロディーと日本語について解説を始める大谷。日本語はロックのメロディーに乗りづらいんだそうです。

そのため60年代後半から70年代のアーティストは悪戦苦闘。矢沢永吉さんがリーダーだったバンド、キャロルのように英語と日本語を混ぜるなどしていたそうです。

最初にロックに日本語を乗せる

音楽ファンの間では、はっぴいえんどが「最初にロックに日本語を乗せたバンド」と言われているそうです。
メンバーは大瀧詠一さん、細野晴臣さん、松本隆さん、鈴木茂さんという後のポップス界、歌謡界をリードする4人のミュージシャンたちでした。

なぜ、はっぴいえんどは最初に日本語の詞を乗せられたのでしょうか?

大谷「松本隆という作詞家の人がドラマーであったということ。リズムに対して意識が強かったんです」

松本隆さんが40年ほど前のインタビューで言っていることと、いきものがかりの水野良樹さんが言っていることが同じなんだそうです。2人が語っているのは日本語の歌詞についてでした。

あ段は一番強い

日本語の中で一番強い音は「あ」だそうです。だから、母音が「あ」(あ段)の言葉を優先するんだとか。これはタイトルにも歌詞にも当てはまるようです。

はっぴいえんどの「風をあつめて」。タイトルの風はあ段。歌い出しは「街」で、こちらもあ段。

いきものがかりのデビューシングル「SAKURA」、歌詞も「さくら」で始まりあ段です。他のシングルも見てみると、「ありがとう」は歌詞の最初も「ありがとう」でこちらも「あ」。

「花は桜 君は美し」「あなた」「茜色の約束」「歩いていこう」もタイトルと歌詞の最初が同じ言葉であ段です。

「ラブとピース!」はタイトルがあ段、歌い出しが「なんで」。違う言葉ですが、同じくあ段になっています。

あのヒット曲も「あ」

大谷「日本の歌謡曲とかロックを聞くと、割とあ段が勝負曲になったりするんですよね。『赤いスイートピー』とか」

1982年に松田聖子さんが歌って大ヒットした「赤いスイートピー」は松本隆さん作詞。
歌詞の最初は「春色」。タイトルも歌詞もあ段で始まります。

ちなみに曲がリリースされた当時、スイートピーには赤い花はなかったそうです。
この歌がヒットしたために品種改良して赤いスイートピーができたという、驚くようなエピソードがあります。

なぜ、それをタイトルにした?

大谷「先代がそうやって悪戦苦闘している中に、突然現れたのが桑田佳祐さんという才能です。歌詞に意味なんていらねえよっていう大胆な発想でした」

サザンオールスターズのデビュー曲「勝手にシンドバッド」。
一説には、このタイトル、作詞家・阿久悠さんの「勝手にしやがれ」と「渚のシンドバッド」を足したと言われていますが、実はドリフのギャグです。

大谷「志村けんさんが『8時だョ!全員集合』の中で言ってたんですよね。それをそのままタイトルにしちゃって意味分かんないですよ」

ちなみに阿久悠さんが大ヒットさせた「勝手にしやがれ」、タイトルも歌詞の最初もあ段。「渚のシンドバッド」も歌い出しがズバリ「あ」です。

音楽が大衆のものになる時

音楽評論家で野球評論家のスージー鈴木さんが本の中で「勝手にシンドバッド」について、このように書いているそうです。

歌詞の意味はわからないが気持ちよく踊れる曲。これが2番になると、「江の島が~」と急に情景が現れます。そのことによって、今まで気持ちよかっただけの歌が自分たちの歌になるんだそうです。

大谷「これ、すごく面白いと思うんですよね。音楽って、本来の意味から逸脱した時にこそ、大衆に受け渡されるって思うところがあるんですよ」

スージー鈴木さんの言っていることを元に持論を展開する大谷。

応援歌へ変形した歌

大谷は、持論を立証するためにプロ野球の応援歌を例に出しました。

例えば山本リンダさんの「狙いうち」。女性が男性と比べて低くみられていた当時、女性が自分から男性を誘う、その意味の「狙い撃ち」がバッターの「狙い打ち」に意味が変わっています。

大谷「『サウスポー』に至っては、あれ、ピッチャーの応援歌ですよね」

ピンクレディーの「サウスポー」、歌詞では女性の左ピッチャーが主人公です。しかし、バッティングのチャンステーマに意味が変わっています。
抑えの左ピッチャーが出てきたりすると、そっちを応援してるんじゃないの?とツッコまれそうです。

アメリカのラッパー、フューチャーの「マスクオフ」という曲が、南アフリカのラグビーの応援歌になっている例もあげました。

大谷「これ、ラップじゃなくて、もう歌なんですよ。みんなで合唱するんですよ」

しかも日本の高校野球のようなブラスバンドの演奏に合わせて歌うので、原曲のラップ感がまるでありません。日本の高校野球ではX JAPANの「紅」も同じ。

大谷「歌詞の意味わかってんのか?っていうぐらいです」

気持ちいいが一番大切

大谷「初期桑田佳祐がやった実験は、意味を逸脱した時に歌は大衆に届くということを証言してるんじゃないかと思いますよね」

スージー鈴木さんは川上音二郎作の「オッペケペー節」にも触れているそうです。明治時代に流行った「オッペケペー節」は政治批判の歌と言われています。しかし…。

大谷「明治時代の人は政治に興味があって真面目な人が多かったって後世の人は書いてるけど、絶対リズムが気持ちよくて、オッペケペーって言いたいだけだったと思います」

現代では土取利行さんのカバーが有名。聞いていると、確かに「オッペケペー」の部分は癖になりそうな気持ちよさがあります。

大谷「この時代はこういうのを求めてたんだよね、とか、あれは後付けなんですよ。だから桑田さんの歌でもわかるように、日本人は気持ちよさをすごく大事にしてるんですよね」

クロード・レヴィ=ストロース顔負けの、大谷ノブ彦の文化人類学的考察でした。 
(尾関)
 
若狭敬一のスポ音
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2023年01月21日12時41分~抜粋

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