若狭敬一のスポ音

ボールをストライクにする。審判も騙された野村克也さんの技あり捕球術

野球解説者の山田久志さんが、4月4日放送のCBCラジオ『若狭敬一のスポ音』に出演し、今年1月に亡くなった野村克也さんについて語りました。

野村さんが南海ホークスに在籍していた頃、山田さんは阪急ブレーブスにいて対戦したことも。
パ・リーグのDH制導入前、山田さんは打者として野村さんの「ささやき戦術」を体験していました。

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キャッチャーで指導者

「野村さんというのは苦労人ですよね。テスト生で入って苦労してレギュラーを獲って、そっから大変なキャッチャーになって。歴代のキャッチャーっていえば、やっぱり野村さんがナンバーワンだと思うんですよね」

キャッチャーで三冠王は日本プロ野球史上、野村克也さんだけです。
キャッチャーは野手に比べて肉体と精神両方の負担が大きいため、打撃のタイトル獲得は困難と言われています。

「指導者としても、いろんな財産を残してる。びっくりしたもんね」

監督時代は「野村再生工場」と言われ、他球団を戦力外になった選手を多数活躍させました。
 

育てる言葉、攻略する言葉

また、野村さんは様々な名言も残しています。

まだ二軍のそんなに力のない選手は、まず無視。声をかけることはしません。
一方で一軍半と言うべき、これから芽が出てきそうな選手に関しては称賛。褒めて伸ばします。
そして超一流のレギュラークラスには調子に乗らせないために批判ばかり。

この「無視、称賛、非難」というのも野村さんらしい言葉。

「相手の一流選手は褒め殺し。『山田はスゴイ。山田は誰も打てん。あんなピッチャーがうちにいたら優勝する』とかね」

当事者の山田さんもこう野村さんに言い振らされました。それが漏れ伝わって、また山田さんの耳に入ると…。

「悪い気はしない。よく見てるなぁ。野村さん、いい人だなぁと思ってるよ。でも実際は、山田をそこでストップさせる攻略法を考えてる」
 

野村さんの言葉

「私、野村さんの講演を聞きに行ったことあるけど、あのリズムでしゃべるから遅いんですよ。私みたいに速くない。1時間半ゆっくり喋るんだ。だから私の三分の二ぐらいしか喋ってないよ。でも、やっぱり良いこと言います」と山田さん。

野村さんの有名な言葉に、「金を残すのは下、仕事を残すのは中、人を残すのが上」という人生訓があります。お金を残したところで、その人生は下。仕事を残すのは中。この人に教えられて良かった、と人を残すのが一番いいことだ、というもの。

「これはどっかの経営者の言葉です」と山田さん。調べてみると、これは政治家・後藤新平の言葉でした。野村さんはいろんな言葉を引用して選手を育てたんだそうです。野村さん自身も名言を残しています。

「『生涯一捕手』ですよね。まだ引退しないんですか?って周りから言われた時に『ボロボロになってやるのも人生。スパッと辞めるやめるのも人生。私はボロボロまでやります。ですから生涯一捕手です』っていう話もあるでしょ」

野村流捕球術

「技術的なことを、もう一つ。これは恐らく聞いてる各チームのキャッチャーなら、すごい参考になる話」

野村さんのキャッチングは雑に見えるそうです。ピッチャーが投げた球を、今のキャッチャーのようにピシッと制止して捕るのではなくパッパッと捕るイメージ。

「例えばカウントがツーボール、ツーストライク。次の球が外れると、投げた瞬間ボールってわかるじゃないですか。そういう時はミットを流すように捕る」

野村さんはそんなに悪い球でなくても敢えてミットを流すように捕るんだとか。
これでカウントは、スリー、ツー。
次も同じようなコースに来ると、今度はミットを動かさずにバシッと捕るんだそうです。

「さっきはミットを流しながら捕ったんだけど、こんどはバシッと捕ったから、アンパイアはストライクって思うのよ。バッターは同じ軌道で来てるからストライクと判定されたら、ええ?と思うよね。そういうのをやるんだよ」
 

話しかけたらダメだけど

ミットを構えてボヤく野村さんのスタイルは「ささやき戦術」と言われました。

実際にどんなことを言っていたのでしょうか?

「常にボソボソ言ってるでしょ?私らも最初、打席に入ってたから聞こえるんだよ。面白いこと言うよ」

パ・リーグにまだDH制が導入されていない頃、山田さんも打席に立っていました。それで野村さんのボヤキがよく聞こえたのだそうです。
規則では打者に話しかけるのはNG。ですが、ボヤキは独り言だからOKだったとのこと。
 

ボヤキの内容は?

「ボヤく声がデカいというより、いやらしいこと言うんだ。『山田のボールは打てんわな。速いわ、どんなタイミングで打ったらいいかわからんわ』とか言っておいて、次に自分が打席に入ると真っすぐを待ってるんだよ」

山田さんが打席に立った時に、ストレートをおだてておいて、自分の打席で投げさせる作戦。さらにこんなボヤキも。

「『なんかこの間、ご飯食べに行ったら山田も来てましたとか言ってたなぁ』とかね。いろんな話をボソボソしてるから、気になってしょうがないよね。それで打ち取られたら本当に頭にくるんだよ。野村さんは、そら見たことかってニコッと笑ってるんだよ」
 

ささやき戦術が破れた瞬間

ピッチャーの山田さんでさえ頭にくる野村さんの「ささやき戦術」、野手だとなおさらカリカリするんだとか。

「野手は大変。亡くなった大杉勝男さんって知ってる?ホームラン王」

大杉勝男さんは日本ハムファイターズの一塁手でした。
入団3年目、コーチから「月に向かって打て」の言葉にバッティングが開花したというエピソードがあります。

「野村さんがあんまりにもうるさくて、(大杉さんは)耳栓してバッターボックスに入ったのよ。これ有名な話。野球やる人はやってみてください。耳栓したら打てない。感覚がないのよ」

耳をふさぐと、三半規管の平衡感覚が失われるんだとか。大杉さんは全く打てず。

「『大杉、バカかお前』と野村さんに笑われて、次の打席は耳栓外して行ったんだって。そこでホームラン打ったら、大杉さんがベース盤のところで、野村さんに向かって、やーいって」

こどもの喧嘩です。

「そんな野球やってた。面白いでしょう。ノムさんに関する、そういう話はいっぱいあるよ」
 

夢の象徴

南海ホークスのホーム球場、大阪は難波にあった大阪球場の駐車場には野村さん専用の駐車場があったそうです。

「停まってたのがリンカーンコンチネンタル。当時、ホームラン王しか乗れない車って言われてたの」

その駐車場は場所は入り口のすぐ近くにあったそうです。

「大阪球場へ行くと、我々はそこを通って行くわけ。これが野村さんの車かって。ピッカピカでね」

ボディカラーは白。ナンバープレートは当時の野村さんの背番号と同じ19だったそうです。

当時は今以上にクルマに乗ることは夢でもありました。ファームの選手は「10年早い」と言われていたそうです。
一軍の選手でも二番手はこの辺りの車、と見てわかったそうで、リンカーンコンチネンタルはフォードの最上級ブランド。超一流の選手しか買えないクルマでした。

「カッコよかった。私がプロに入って車を見たときの衝撃は、あれが一番」
(尾関)
 
若狭敬一のスポ音
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2020年04月04日13時11分~抜粋

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