若狭敬一のスポ音

宇野昌磨「笑えてきた」の真相に迫る

スポーツライターの小林信也さんが、2月24日『若狭敬一のスポ音』に出演し、フィギュアスケート男子で金メダル・銀メダルを獲得した羽生結弦選手と宇野昌磨選手について語りました。

「羽生陣営、羽生君と羽生チームに、日本中だけじゃなくて世界中がしてやられた」

まず怪我を逆に利用し、マスコミを排除の上、静かに練習ができる環境を作った羽生陣営の戦略を見事だと分析します。

怪我を利用した戦略

羽生選手は、昨年11月9日、グランプリシリーズ第4戦NHK杯公式練習中に転倒し、右足首外側靭帯損傷と診断され、全治3週間とも8週間とも報道されました。

「怪我をしていなければ、当然、最後の選考会である全日本選手権にも出なければいけなかっただろうし、そのための準備、会場への往復、さらにテレビや雑誌などの取材にも応じなければいけない。連覇がかかってるんですっていくら言っても、やっぱりメディアは放っときませんよ」

ところが、大怪我をしたことで、みんなの気持ちが羽生選手の連覇を期待するよりも、まず怪我を治してもらって、オリンピックで復帰してほしいという風潮に変わりました。

「期待値はものすごく低いところから始まっているんです。現実の怪我の状態はどうなのかわかんないんですよね。でも、もうオリンピックに出られないんじゃないの?っていう前提があるわけですよ。そこが、もう戦略の凄さですよね」

"靭帯損傷"のインパクト

そもそも"靭帯損傷"とは、どんな怪我なのでしょう?
聞き手の若狭アナが解説します。

「経験者から言うと、ざっくり"捻挫"です。靭帯が切れてしまうほどのものではなくて、損傷、つまり傷つく。いわゆる靭帯が伸びるとか離れるとか言われるものは捻挫なんですよね。これは3~4週間ぐらいで治ります」

実は若狭アナ、草野球で両足の「靭帯損傷」を経験しています。

「怪我が決して重くなかった、と言う気はないですが、ブライアン・オーサーコーチは、怪我の完治や練習再開の目安は立てていたと思うんですね」と小林さん。

「捻挫」と言うと軽いイメージですが、「靭帯損傷」と言われると、お先暗闇なイメージです。
これが、多くの人たちに与えた、戦略としての最初のインパクトです。

オーサーコーチの掌で

「例が悪いかもしれないですけど、大相撲の貴ノ岩問題の時には、怪我の診断書はもとより写真まで持ち出されたぐらい。でも羽生君には『怪我の写真を出せ』なんて誰も言わないわけじゃないですか」

これは世間の羽生選手への想いによって、誰もそんなことを求めないから、と説明する小林さん。

「メディアは、常に裏をとれって言われるんですけれども、羽生君のこの一連の出来事に関しては誰も裏をとろうとはしてないんですよ。
オーサーコーチは、周りがどんな気持ちになるか、メディアがどう動くか、そういうことまで、よくわかっていたと思います。僕らはオーサーコーチの掌の上で転がされてたような感じもするんですよ」

世界中がしてやられた

フィギュア男子シングルの日本代表枠は3枠。
羽生選手が全日本選手権に出場できないと報じられると、誰もがオリンピックの出場を不安視しました。
しかし、日本スケート連盟は実績によって羽生選手を1枠として発表しました。

「出場が決まれば、羽生選手には当然じっくり休んで怪我を治してってなるわけ。別に、羽生選手に文句を言ってるわけじゃないですよ。でも、この空気って面白いなと思いました」

その上で期待通りの結果を出した羽生選手。

「最初に『世界中がしてやられた』と言ったのはここなんです」

オリンピックが抱える問題

小林さんによれば、この羽生選手のケースは、実はオリンピックそのものが抱えている問題なんだそうです。

「IOC(国際オリンピック委員会)も、羽生選手が平昌に出場しなかったら、すごく困っていたんです。実はアメリカの放映権料など、オリンピックは巨額のビジネスなわけですよ。そこにもし、スーパースターが出ないなんてことがあると、もうとんでもなくガッカリですよね」

例えば、アメリカのバスケットボールチームは、プロからスーパースターを呼んできてドリームチームを結成しました。しかし、出るべき人が怪我で出てないとか、予選で敗れて出られない、そういうことがあるとビジネスは崩壊します。

「今後は、各国の予選で破れてしまったけれども、出られるバイパスのような措置を検討すると思います。現在、いろんな競技で採用されているのが、選考を一発勝負にせず、ポイント制度にして、国際的なランキングで上位に入っていれば自動的にオリンピック出場資格が得られるというものです」

このポイント制度の裏をかいた形で、スキー女子ハーフパイプに出場したのが、ハンガリー代表のエリザベス・シュワネイ選手です。

彼女はメダルはさておき、まずオリンピックに出場することが夢でした。
そこで出場条件である「世界大会で30位以内に複数回入賞」をクリアするため、30人未満の大会を選び、その結果平昌オリンピックに出場しました。

そのシュワネイ選手、出場はしたものの技もなく、転ばずに滑るだけでしたが…。

羽生選手の落とし穴

「僕は、宇野君が金メダルを取ってくれるといいなと思ってました。その可能性が大いにあると思ったんですよ」

こう話す小林さんに「最初の4回転んだ後に笑えてきたっていう、天然ぶりが伝えられてますが、その鈍感さ、ずぶとさも彼の持ち味なのかなと思ってしまいました」と若狭。

それに対して小林さんはこう分析します。

「羽生君にとって、一番怖かったのは3ヶ月のブランクではなく、宇野昌磨の台頭だと思いました」

例えば3ヶ月ぶりに自転車に乗るとして、ちゃんと乗れるかなんていう心配はしません。羽生選手の4回転ジャンプもそれと同じで、一度できたものは、よほどのことがない限りできなくなることはないそうです。
身体さえ、ちゃんと対応してくれれば、みんなが思ってるほど3ヶ月のブランクは心配ないといいます。

「ただし、ひとつだけ落とし穴があった。自分が休んでいた最終選考会とかの、宇野昌磨君の演技のあまりの進境ぶり」

金を狙った宇野選手の落とし穴

「奇しくも宇野君が、こういうことを言ってるんですよ。『羽生さんが出てきたら、自分は全然、注目されないんで静かに調整できます』みたいな。それで何が起こったかと言うと、宇野君が色気を出しちゃった」

普段ならリスキーなプログラムで果敢に挑んでくる羽生選手ですが、今回は怪我からの復帰ということもあり、ルッツをやらないなど抑え気味の内容で試合に臨みました。きっちり金メダルを取るための滑りに仕上げてきたわけです。

「ところが、それを見た宇野君が、俺、もしかしたら金メダル行けちゃうかも。あの遠い存在だった羽生君の上に、俺は立っちゃうかもって思った時に、またここに落とし穴があったんじゃないかなと思いますよ」

「笑えてきた」の真相は?

フリーの演技は構成の時点で、最大何点取れるのか予想がつきます。完璧な演技をすると、宇野選手が勝っていた可能性もあったわけです。しかも、それは本人が一番わかっています。

「滑った直後のインタビュー。ジャンプ失敗した後『笑っちゃいました』って言った、その言葉を凄く面白く聞きましたけどね。普通、そんなこと言わないでしょ?
惜しかったですねって言うかと思ったら、笑っちゃいましたって。要するに、羽生選手の上に行くとか思っちゃってた自分自身に、笑っちゃいましたってことだよね。僕はそう感じました。そうすると全部がすっと理解できるんです」

若狭も「なんだ、この鈍感さは?なんて思っちゃったけど、その裏には、自分の欲に対する失笑だったわけですね?」と納得しました。

復活を果たした羽生結弦選手。頭角を現した宇野昌磨選手。
二人の心の内まで分析する小林信也さんでした。
(尾関)
若狭敬一のスポ音
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2018年02月24日14時21分~抜粋

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