「山田久志の栄光に近道なし」。
サブマリン投法でプロ通算284勝、ドラゴンズの監督、2009年WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)侍ジャパンのピッチングコーチを務められた山田久志さんに野球の魅力・裏側を語っていただきます。
今回は、アメリカが優勝して終わった第4回WBC ワールドベースボールクラシックを振り返りました。
第4回WBC アメリカ優勝の真の理由
意識変革がアメリカを優勝へと導いた
「アメリカが今年は選手を集めたって感じがするね。2006年、2009年、日本が二連覇を達成した時よりも、やはり、いわゆるメジャーの一流どころが集まっている」と山田さん。
過去の大会もヤンキースのデレク・ジーターなど一流選手は出場していましたが、チーム全体でみるとバリバリのメジャーは半分。後はメジャーと、その下の3Aを行ったり来たりしている選手で構成されていました。なので、強烈な印象は受けなかったそうです。ではアメリカの意識はどう変化したのでしょうか?
「聞いた話では、自分たちが野球発祥だと思ってるのに、日本に負けたり、ドミニカに負けたりして世界一になれない。で、アメリカの野球ファンが、何やってんだ、ってことになってきて。そうゆう機運もやっぱりあったらしい」
なかなか勝てないアメリカにファンがカリカリしてきたようです。
「それで、総監督みたいな位置に据えた人がトーリ。名門トーリ。あの人の一声一声が、選手を呼び集めたって。いわばアメリカ球界の重鎮が、来ないか、と今回のメンバーを集めた」
トーリとは、ジョー・トーリのこと。17年間メジャーの選手としてプレーし、その後は5球団を監督として率いた野球の名門中の名門です。ファンの声に背中を押されるように、アメリカが本気を出してきた、ということのようです。
過去に感じたアメリカとの温度差
2009年、山田さんがWBCのピッチングコーチだった時の話。
「松坂大輔がピッチャーで入ってくれたんですよ。そうしたらボストン・レッドソックスの球団から、練習内容を知らせろと、毎日、私宛てにファックスが届くのよ。例えば松阪が何球投げたか。どのくらい走ったとか、体操に何分かけたとか」
大金を払って獲得したピッチャーに開幕前に怪我でもされたら一大事です。球団側も気が気じゃありません。
「毎日通訳に英語で書いてもらって送るんだけど、私もこういう性格だから、だんだん腹立ってくるわけ。彼が1回ね、足の不調を訴えたの。その時にやっぱりニュースになってボストンに届いてるわけよ。そんな状態ならもう止めさせてくれって言ってきた」
そこで山田さんは松坂投手と相談すると2、3日で大丈夫という答え。
「松坂の言う通りそのまま書いてと。それともうひとつ。確かにDAISUKE MATSUZAKAは、君たちボストン・レッドソックスの所属だと重々承知してるし、そのつもりで私はこれからやっていくと。ところが、今は日の丸を背負う選手として私は預かってると。それでファックスにJAPAN, Pitching Coach, HISASHI YAMADAと大きく書いて、DAISUKE MATSUZAKAは小さく書いて、これは俺の意見だっていうことで送った」
熱い思いを相手にぶつけたのですが、帰ってきた返事は、
「あっちからの返事は信じられないって。何がWBCだ?と。WBCで日の丸を背負うことが、そんなにデカいことじゃないでしょ?と。当時はメジャー全体がそういう雰囲気だった」
当時のアメリカではメジャーの公式戦優先。WBCはオマケのような感覚だったんですね。
次回が開催されるとされる4年後には、日本ハムの大谷翔平投手がメジャーリーガーになっている可能性もあります。二刀流ですから「大谷野手」の可能性もあるわけです。
日本の野球ファンは当然、侍ジャパンで活躍する姿も見たいですよね。その時のピッチングコーチも、いろんなやりとりをメジャーリーグの球団とすることになるのでしょう。
(尾関)
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