CBCラジオ #プラス!

書評家がおすすめの新刊・サスペンス小説『身代りの女』

毎週水曜日の『CBCラジオ #プラス!』では、書評家の大矢博子さんが、出版されたばかりの本の中からおすすめの新刊書を紹介しています。

5月1日放送でのおすすめの本はシャロン・ボルトン『身代りの女』(訳:川副智子)。
新潮社から4月24日に発売されたばかりの、イギリスのサスペンス小説です。

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まさに身代りの女!

物語の中心は高校を卒業したばかりの仲良し優等生6人組。男女3人ずつのグループです。

6人は前々から度胸試しと称して危険なゲームをやっていました。
それは6人で車に乗り込み、交通量の少ない深夜に2、3分ほど高速道路を逆走するというもの。
これまでヒヤリとする場面は多々ありましたが、交通事故や逮捕はなく済んでおり、この日の夜も度胸試しをすることに。

しかしついに相手の車と衝突し炎上してしまいます。

乗車している相手が助かる見込みはなく、6人は他に目撃者がいないことをいいことに逃げ出してしまいました。

その後6人で言い争いになります。
助けるべきだったのではないか、自首をした方がいい、ドライバーのせいではないか、連帯責任だ…。

そんな中、メイガンという女性が、自分一人で運転して事故したことにする代わりに、刑務所に出たらメイガンの要求を他の5人が聞くという提案をします。

それに合意し真実を書いた念書を作り、サインをして写真を撮ったのち、メイガンが自首。
懲役20年という、6人が考えてた以上に重いものになってしまいました。

その後、40歳近くになった5人は全員希望の大学を出て社会の成功者に。
そこにメイガンが出処し、20年前の約束を果たさせるべく5人と接触します。

成功者になった5人はメイガンの出処をどう捉えるのか?そしてメイガンの要求とはなんなのか?
そもそもメイガンはなぜ自分の人生を棒に振る行為をしたのか…。

魅力その1 自分だったらと考えさせらせる

読み応え満載の内容だという大矢さん。魅力は大きく分けて2つあるそう。

まずは、自分だったらどうするかと考えさせられるところ。

メイガンは自首をする際、6人で集まっていたがメイガンだけが先に帰ることにし、車を借りて帰っている途中に事故にあったと供述しました。
そのため他の5人も一人ずつ事情聴取を受けることになりますが、その内容に性格が出ます。

メイガンが言ったことと齟齬があってならない、他の4人がどう供述しているかわからないため手探りの回答になるのが読み手に伝わる表現はお見事。

中には5人がメイガンの言う通りに供述しているのか疑心暗鬼になっている人がいたり、正直に言いたいのに他の4人も一緒に罪になってしまうという葛藤を抱える人もいたり、全く違う思考の6人の心を表した事情聴取は読み応え抜群です。

その中で大矢さんは「自分は一番誰に近いか」と考えてしまうそうです。

大矢「今日も度胸試しやろうぜ、と言い出した人がいた瞬間から、自分だったらどうするだろう、ていうのをね、ずっと考えさせられる」

魅力その2 展開の意外性

メイガンが出所後、他の5人に何を要求するかが読みどころですが、なかなか要求してきません。

まずは「懐かしいわね」と言った穏やかな様子で近づいてきます。
5人は「金なら金だと言ってくれ」と思うものの、それでも言ってくれません。
しかし家で一泊させてもらったり職場を見たり、ちょっとした頼み事はするメイガン。
一体何がしたいのか…。

最後は考えてもいなかった展開が待ち受けています。

『身代りの女』のテーマは「過去の間違った選択のツケを払わされる」こと。
後悔しているのであれば、遅すぎたとしても、ちょっとでもやり直せる方法を探せるのではないか、と考えさせてくれるサスペンスです。

巻末にある解説は大矢さんが担当しています。そちらも合わせて楽しんでみてはいかがでしょうか。
(ランチョンマット先輩)
 
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2024年05月01日08時19分~抜粋

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