若狭敬一のスポ音

銅メダル確定で膝から…ボクシング、田中亮明選手の重い言葉

東京2020オリンピック ボクシング銅メダリスト田中亮明選手が、12月30日放送のCBCラジオ『若狭敬一のスポ音』に出演しました。
メダルまでの道のり、準決勝の敗戦への想いを赤裸々に語りました。

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腹の中でほくそ笑む

岐阜県多治見市出身の田中亮明選手。フライ級でのメダルは61年振りです。
ボクシングはトーナメント戦で、田中選手は、最初からかなり厳しい位置にいました。

高校野球のくじを引きで例えると、1回戦、東海大相模。勝っても2回戦、大阪桐蔭。さらに勝っても3回戦、智辯和歌山みたいな、そこのくじを引いてしまった田中選手です。

「一緒にオリンピックに出場している男子メンバーは全員、僕に対して『亮明さん、お疲れ様でした』って言ってきました。僕も『お疲れ様でした』と返しました。心に余裕があるんで怒ったりしないです」

そう笑う田中選手ですが、実は腹の中で「これは目立てるチャンスだ」と思っていたそうです。
 

強気でいけた理由

「僕は負けが多くて、今まで目立った成績を残してないんですけど、昔から自分に自身だけはあるんです。上手くいってなかっただけで、いつもプランは万全なんです。オリンピックだろうが想像できてましたね」

成功を描ける力はどこから来るのでしょうか?

「ちゃんと答えられないんですけど、根拠のない自信みたいなものありましたね。ただ今回のオリンピックに関しては、1年間本気で努力してきたんで、自信だけじゃなかったんだろうなって思います」

今回のオリンピックはコロナ禍で1年延期になりました。その間に積んだ練習が、勝利への根拠になったそうです。

「周りは『いつも通りの自信だけの亮明さんですね、お疲れ様です』って感じだったと思うんです。
みんなは、コロナで一緒に練習出来なかったので、僕の努力を知らないんです。まさか僕が、こんなすごいボクシングするとは思ってなかったと思います」
 

1回戦突破

1回戦、リオデジャネイロオリンピック、フライ級銀メダリスト、ベネズエラのヨエル・フィノルリバス選手と戦って勝利しました。

「めちゃめちゃ嬉しかったですね。オリンピックをただの通常の記念大会にするつもりはなかったんです。本当にメダルを取りに来てたんで、僕のボクシングは世界に通用するなって確信できたのが一回戦ですね」

そう語った田中選手。試合後はアドレナリンによる高揚感で体へのダメージは感じなかったそうです。
また、2回戦までには4日あり、十分回復できたんだそうです。
 

アジア予選のリベンジ

2回戦はリオデジャネイロオリンピック、フライ級銅メダリスト。中国の胡建関選手に勝利しました。

「胡選手は、2020年の3月のアジア予選でアジアで1位になってる選手なので、近々のアジアチャンピオンです。いっちゃった(勝っちゃった)なと思いましたね」

自身は勝つとは思っていたそうですが、実際に勝利するとテンションが上がったという田中選手。
 

勝てば銅。その前夜

そして3回戦、準々決勝。リオデジャネイロオリンピック、ライトフライ級の銀メダリスト、コロンビアのユベルヘンエルネイ・マルティネスリバス選手と対戦。
これに勝てば銅メダル確定となっていた試合。リングに上がる心境を聞きました。

「これに関しては、夜寝れなくて。僕、カッコつけて『メダルより、皆の記憶に残る派手な試合がしたい』と言ってたんです。でも次勝てばメダルじゃないですか。めちゃめちゃ緊張しちゃって。
こんなに寝れないのは、いつぶりだろう?ってぐらい寝れなかったですね」

何時間かは寝て、起きた時は「やってやるぞ」というスイッチが早い時間から入ってしまったそうです。そして試合終了。リング中央で判定を待ち、勝利のコールを聞いた瞬間、田中選手は膝から崩れ落ちました。

「緊張から一気に解放されたと言うか。嬉しさより解放って感じでしたね。だから膝から崩れ折れちゃって」

 

感動のシーンなのに?

田中「1回戦と2回戦は喜びがすごかったんですけど、3回戦で解放されちゃって。今思うと、そこが自分の甘いとこだったのかなと思います」

若狭「え?あれ結構、感動のシーンですよ。メダル取れた。勝って膝から落ちた。61年ぶりにフライ級で銅メダル。日本中も、そして私も、亮明選手やった~っていうシーンだったんですけどね」

あの時は全て出し切って満足していたそうです。しかし、今思うと…と続ける田中選手。

「あそこで気持ちも解放しちゃった。けど、それやっちゃダメなんですよ。だからあの後、身体の疲れがすごかったんですよ。
大一番の仕事した後って一気に疲れがバーッと出てくるじゃないですか。次の日、身体がボロボロになっちゃってましたね」
 

金メダルの重さ

準決勝、フィリピンのカルロ・パアラム戦を振り返りました。

「その時にやれることはやってたかなーって。自分で試合見ても、パフォーマンスとしては悪くなかったと思ってますけど、そこで勝ちにたどり着けなかった原因を探ると、やっぱり準々決勝にあったんじゃないかと思います」

準々決勝で勝ち、メダルが確定したことで、気持ちが解放されて膝から崩れ落ちてしまった、と分析する田中選手。

「この一年間、”金”メダルだけを見て、それこそボクシングを始めた時から”金”メダルだけを見続けて、やってきてたなら、あの準々決勝で勝利した時に膝から崩れ落ちなかったのかな。まだまだ自分は上を見てたのかなと思います。そこがオリンピックで学んだことすかね」

最後に、こう付け加えました。「金メダル目指してない人間が金メダル取れるわけないなって思いましたね」

61年振りに日本のボクシング、フライ級にメダルをもたらした田中亮明選手の、非常に重い言葉でした。
(尾関)
 
若狭敬一のスポ音
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2021年12月30日15時33分~抜粋

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