プロ野球を観ていて、ひいきのチームに不調な選手がいると、その怒りの矛先が、選手ではなくコーチに向かうことも。
では、実際にコーチが出来る範囲はどこまでなのでしょうか?
5月22日放送のCBCラジオ『若狭敬一のスポ音』では、中日ドラゴンズでコーチや監督を務めた経験を持つ野球解説者の山田久志さんが、プロ野球のコーチの仕事について語りました。
聞き手は若狭敬一アナウンサーです。
名コーチに教わった哲学
コーチの仕事とは?と聞かれ、て開口一番「実に難しい」と語る山田さん。
山田「コーチ業で大切なことの一つは、選手一人一人をどういうふうに観察できるか?という観察力。例えばスランプに陥る。優秀なコーチは自分から行かない」
アドバイスをしに行くのはコーチとしては「あり」だそうですが…。
山田「そこをもう一つ乗り越えていくコーチは、選手が聞きに来るまで、じーっと我慢する。来た時に最高のアドバイスをする。
これは私がコーチ業を始める時に、ある有名なコーチから教えてもらった哲学」
残念ながら、その有名なコーチの名前を教えない山田さん。
山田「そういうコーチだから、俺の名前を出すなよってことですよ」
常に観察
山田「例えば、勝てなくなった若狭投手に対して、『いま君がこういう風に見えてるんだけど、ここを二人でやってみようか?』 こういう言い方をする。
『やれ』じゃないんですよ。ちょっと深いでしょ」
若狭「沁みますねえ」
「君はこうなっているから、これに取り組みなさい」ではなく、「二人でやってみようか」…こういう言い方をしないと、選手はコーチに対して、なかなか飛び込んできてくれないんだそうです。
シーズン中、スランプに陥る選手は、必ず3人ほどはいるんだとか。
山田「誰だって、そういう可能性があるわけ。だから常日頃から観察しておかなくちゃいけない」
若さゆえのトラブル
選手がスランプに陥る原因は、野球だけではなく、プライベートな問題から来ることもあるんだとか。
そのためコーチに必要なことのひとつは、選手が誰にも話せないことを話せる環境を作ること。
山田「金銭問題はよくありますね。野球選手はあれほど頑張ってるのに。みんな若いですから、いろんなトラブルを抱えている。そういうこと考えたら、コーチのやる仕事って結構あるんですよ」
もどかしくても待つ
練習が始まる前の「おはようございます」の声の出し方や、グラウンドへ出てくる立ち居振る舞いで、選手の状態がわかるそうです。
そのため、コーチは選手より先にグラウンドにいる必要があるそうです。
山田「だから待つのがコーチの仕事なんですよ。そう思っとけばコーチ業は成功します」
若狭「名言出ました。コーチの仕事は待つこと」
山田「プロだし、自分の経験があるからアドバイスは誰でもできるんですよ。経験談を喋ればいいわけだから。ところが、じーっと待ってる」
若狭「もどかしくないですか?」
山田「だけどコーチは、それが大事」
コーチ業の肝
山田「コーチっていうのは選手とのコミュニケーション。その上に、まだ監督がいるわけです。だからコーチは、選手のことで、監督に言っていいことと悪いことがあるんですよ」
ところがコーチは言いたがるんだそうです。
言ってしまうと選手の信頼をなくします。
その上、監督には怒られる。そこが難しいんだとか。
山田「昔、星野さんの情報網なんかすごかったもん」
若狭「山田ピッチングコーチが黙ってるのに」
山田「なんでそんなこと知ってるんですか?って。コーチ業はそこが肝かな」
野球の原点
山田「コーチに出来ることは、アドバイスをして、それからカッコよく言えば、『一緒に悩もうか』っていう感じですよ」
中日のピッチングコーチ時代は、川上憲伸さんや野口茂樹さんなど当時のエースが相談に来たそうです。
山田さんが彼らに言ったのは「二人で原点に帰ろう」という言葉だそうです。
若狭「まず下半身を鍛えて、外のまっすぐをビシッと投げること?」
山田「NO。普通のコーチはそう考える」
山田「お父さんとこどもが『野球やろう』って言うと必ずキャッチボールをやる。プロの選手でもキャッチボールを大事にする」
キャッチボールをして、遠投をする。その繰り返しで身体、フォームのバランスの崩れを見るんだそうです。
野球だけじゃない
山田「私は、原点に戻ることは野球だけじゃなくて、なんだってそうだと思う。私は家族のことはあんまり言えるタイプじゃないけど…」
家族、学校、職場。うまくいく、いかないはコミュニケーションから。
山田「一番大事なのは『ありがとう』ですよ。相手への感謝。『ありがとう』という言葉を使えることは非常に大事なことです。日本語で1番いい言葉ですよ。その上が『おかげさまで』です」
コーチの仕事は野球ならばキャッチボール。人間関係なら言葉のキャッチボールに、まず帰るということでした。
(尾関)
若狭敬一のスポ音
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2021年05月22日12時47分~抜粋