若狭敬一のスポ音

ボクサーとして、人間として大きな敗戦。田中恒成、大晦日の井岡戦を語る

プロボクサーの田中恒成選手(SOUL BOX畑中ボクシングジム所属)が、2月20日放送のCBCラジオ『若狭敬一のスポ音』に出演しました。

昨年大晦日の井岡一翔選手との試合を振り返る田中選手ですが、負け試合にもかかわらず、気さくに答えました。

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万全の準備で臨んだ

昨年の大晦日、WBOスーパーフライ級タイトルマッチが行われました。
3階級制覇の田中恒成選手の開いては、4階級制覇の井岡一翔選手。
田中選手にとって、井岡選手は6つ年上の憧れの存在でした。

どちらが勝ってもおかしくないという前評判でしたが、田中選手は8ラウンドTKO敗けで井岡選手の圧勝に終わりました。

まずは試合前の心境を尋ねる若狭敬一アナ。

田中「自分の最高の準備をしてきたと思ってたので、なるようになるなと思ってましたね。自信満々でした。もちろん緊張はすごくしたんですけど、万全の準備をしてきたので、その緊張を楽しめるようになってました」
 

10秒で終わってくれ

田中「俺と同世代の選手は井岡一翔選手に憧れていた選手も多いですし、よく見てた選手なんで、この空気感、井岡選手が目の前に立ってる感覚は俺しか味わえないなと思って、それも楽しい瞬間でした」

憧れの選手とはいえ、試合が決まってからは対戦相手としか見ていなかったそうです。
第1ラウンド開始直後にヒットさせた右ストレートの手ごたえは?

田中「めちゃくちゃありました。これで倒れてくれ、10秒で試合終わってくれって思ってました。1%ぐらいですけどね」
 

何かがズレていた

ところが中盤からは井岡選手のジャブも繰り出されてきて、第1ラウンドが終了。
毎試合ラウンドごとに、セコンドにはポイントが取れているか?いないか?を確認するという田中選手。セコンドの答えは決まって辛口なんだとか。

田中「今回は自信持って『確実に取ったよね?ポイント的には良いスタートでしょ?』って言ったら、『確実に取られた』って逆なこと言われたんです。
1ラウンド終わった時点で、ちょっとおかしいなっていうか、ズレが出てましたね」

後で確認すると、審判は3人ともポイントを井岡選手に付けていたそうです。
試合後の井岡選手自身の談話でも「最初から余裕を持って戦えた」とありました。

田中「たぶんとかじゃなく、俺は確実に取ったと思ったんで、そこでかなりズレが生まれてました」
 

プロならではの駆け引き

試合は進んで第5ラウンド。残り15秒で、左フックを食らってダウンした田中選手。

田中「プレッシャーをかけ始めたぐらいのところですね。自分がプレッシャーをかけていて前に出ていた、というよりは、『相手に来いよ』って引き込まれて、簡単にフックもらってダウンしたっていう流れですね」

今までの試合では挑発されたことがなかったそうですが、この試合ではわかりやすく"手招き"をしていたという井岡選手。
そういうポーズの他に、対戦している本人にしかわからない誘い方もあるそうです。

田中「相手が手を出しそうなのに、出してこないとか、そうなった時に自分が我慢できずに責めちゃうと、相手は自分が来るタイミングを読めちゃうんですよね」

そうなるとカウンターで合わせられてしまうんだとか。

田中「逆に、不意に相手から攻撃が来たりとか。中盤に入る時点で、そういう駆け引きをいろいろしてたんで、自分よりも全然上だなって思いましたね」
 

負けちゃったなあ

6回にもダウンを奪われ、いよいよTKを記した8ラウンド。左フックで足元がふらつきレフェリーストップ。

田中「負けちゃったなーって。まだ戦いたいのにって思った瞬間に、今までダウン2回もしてるんで、止められても仕方ないな、ああ負けちゃったって思いましたね」

まだ足はしっかりしていると思ったそうですが、実際はフラフラでした。

この後、勝利の雄叫びを上げている井岡選手の元に歩み寄った田中選手。この時の心境を聞くと…

田中「本当に出し切って、自分の中では負けを認めてたので、試合が終われば先輩のチャンピオンなんです。だから自分から行きました」
 

試合直後の会話

田中選手が試合で負けたのは高校生の時以来とのこと。
その時は取り乱してちゃんとした対応が出来なかったんだとか。

田中「高校生の負けた時は、準備の段階で悔いがある状態で試合に臨んでたんです。それが今回は悔いが全くなく臨めたんで、これで負けたなら仕方ないって本当に思いました」

井岡選手とはどんな会話をしたのでしょう?

田中「めちゃくちゃ強かったですっていうことと、完敗ですって伝えに行ったんですけど、って自分は言いましたね」

一方、井岡選手の言葉は…。

田中「これからボクシング界引っ張っていくと思うし、まだまだこれからっていうことを伝えてもらいましたねって、すぐにその言葉が出る井岡さんと自分とでは、大人とこどもぐらい、差はすごい現れてますよね」

その後、深々と観客にも頭を下げた田中選手。
コロナ禍の中であるにもかかわらず、サポート、応援に対してのお礼の気持ちを込めたそうです。
 

“つもり”止まりだった

今回の敗戦から学んだことについて語る田中選手。

「やっぱり基本が足りないなと。原点に帰るじゃないですけど基礎ですよね」

これまで「ガードが低い」と言われていて、ガードを上げることを課題として取り組んだこともあったそうです。
しかし勝ち続けてきたことによる慢心なのか、ガードを上げることも克服したつもりでしたが、今回は敗戦という結果です。

田中「勝ち続けてる中でも、負ける前に、どんどん自分を変えていこうってやってたつもりだったんですけど、それが結局は、“つもり”止まりだったんです。今回、壁にぶち当たりましたね」

"つもり"止まりの人は多いでしょう。良い結果が出ている間に何か変えようとはなかなか思わないのではないでしょうか。
 

なるようになる

好きな言葉を尋ねられた田中選手。

田中「インタビューとかで、一回も言えたことないんですけど、今出てきました。これは本当に試合の直前に思ったことなんです」

こう切り出して答えたのは「なるようになる」。

準備をしっかりしてきたからこそ、後は「なるようになる」という心境。
「人事を尽くして天命を待つ」と田中選手流に柔らかく表現したのが「なるようになる」だそうです。一般的には、周りの状況任せ、運任せですが、全く違う使い方です。

「運任せなんかできないんです。ここまでやったから、後はもうどうなってもっていう、それぐらいの準備をしないと、この言葉は言えないですね」
 

大きな敗戦

この試合前までは、4階級制覇、5階級制覇ぐらいまでは余裕だと思っていたそうです。しかし、今は心境に変化があったようです。

田中「今回負けて、4階級制覇難しいなって思っちゃったんです。まずは焦らずに、4階級制覇は次にチャレンジした時に、勝てるようにしたいですね」

今回の敗戦は、技術的な面、駆け引き、メンタル面で大きなインパクトのある試合だったようです。

谷中「人としての器というのか、余裕というものの差を、試合中にすごい感じていたんです。試合が終わった今でもすごく感じてるんで、これを活かしていかなきゃいけないなと思いますね」

大晦日の試合は、プロボクサーとして、また人間として、大きな節目になったことは確かです。今後の田中恒成選手の活躍に期待しましょう。 
(尾関)
 
若狭敬一のスポ音
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2021年02月20日15時05分~抜粋

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