ダイノジ大谷ノブ彦の周囲では、日本が誇るシリーズ映画『男はつらいよ』にハマっている人が増えているとか。
8月15日『若狭敬一のスポ音』では、シリーズ全作を観たという大谷が、ほとんど観ていない若狭敬一アナウンサーを相手に、『男はつらいよ』の魅力について熱く語りました。
こどもにはわからない
大谷「若狭さん、『男はつらいよ』って見たことあります?」
若狭「私の父が大好きで、こどもの頃見てたんですけど…」
父と一緒に観始めたものの、楽しさがよくわからず、途中から弟と遊んでしまっていたという若狭アナ。
若狭「結局寅さんは、(どの作品も)最初から最後まで見てないんですよ」
大谷「実はこういう人、めっちゃ多いんです」
大谷も小学生の頃は寅さんの面白さがわからず、レトロ趣味の同級生から『男はつらいよ』のギャグシーンを教えてもらいながら、「ああ、そんなぐらいなんや」と評価していたそうです。
寅さんはダメな人
大谷「ところが、コロナ禍で改めて観始めると、実はこういう話なんだ。寅さんってこういう人なんだ、とわかってきた」
寅さんについて、一般的には、若者の恋を応援する人情味あふれる良い人。
惚れやすく、失恋しても相手の幸せを願う人、というイメージがあります。
大谷「でも、そうでもないんですよ。すごくわかりやすく言うと、寅さんってダメな人なんですよ」
最初はテレビドラマ
主演の渥美清さんについて語る大谷。
大谷「喜劇役者で劇場でコントをやられていた。代表作が欲しくて、自分の特技を考えると、幼い頃、浅草で見ていた"啖呵"だったんです」
テキ屋の七五調の啖呵をそのままコピーして、劇場でもよくやっていたそうです。
同時期、松竹に在籍していた山田洋次さんにも代表作がなく模索中。そんな二人の思惑が合致した作品が、フジテレビのドラマ『男はつらいよ』でした。
放送は1968年から1969年。ドラマの最終回は、ハブ酒で一儲けしようとした寅さんが奄美大島でハブに咬まれて死んでしまうという結末。視聴者からは「寅さんを殺すな」と抗議が殺到。
こうした声を受けて1969年、寅さんは映画で復活することになったのです。
大谷「シリーズを最初に見る方は、ぜひ、第1作目から見て頂きたい。最新作はね、寅さんが合成で出演している『男はつらいよ お帰り 寅さん』(2019年)。ちなみに最初の主題歌が桑田佳祐さん。これを最初に見てもいいと思います」
不寛容な社会の教科書
大谷「寅さんのパブリックイメージは誤解されている。もっと言うとダメな人です。すぐ喧嘩になるし、コミュニケーション能力が非常に低い」
しかし、義理人情に厚く、受けた恩は返したがるのが寅さん。
大谷「この憎めないキャラクターを、実は周囲の人間が寛容的に共用してるんですよ。この共用してることが超大事だと思うんです」
今の社会には、コロナに感染した人、芸能界で不倫した人、少しミスしてしまった人などをSNSで徹底的に叩くような風潮があります。
大谷「この不寛容な社会において、最も教材として見るべきなのが『男はつらいよ』じゃないかなと思うんです」
日本人の本質
大谷は、寅さんの日常を見ていくうちに「迷惑をかけるとは何か?」「人と人が生きて共存していく時に、迷惑をかけないことなんてあるのか?」という疑問に行きついたそうです。
「どんな人も、大小の差はあれ、どこかで誰かに迷惑をかけている。そういう後ろめたい気持ち持たなきゃいけないんじゃないか」と大谷は言います。
寅さんは、迷惑をかけることに対して開き直ってるわけではありません。申し訳ないとは思っていても、迷惑をかけずにはいられない。そして旅に出ます。
そんな寅さんですが、義理人情、やせ我慢など、昔の江戸っ子が大事にしていたものが滲み出るから愛されていた、と分析する大谷です。
大谷「あれこそ本当は日本人が持ってる本質的なものなんじゃないかなって見ながら思いました」
特にオススメの3本
大谷が特にオススメする3本のうち、まず挙げたのがテレビドラマから復活した第1作の『男はつらいよ』。
2本目が2作目の『続 男はつらいよ』。寅さんが実母を探しに京都へ行くという話です。ミヤコ蝶々さんが演じる実母はラブホテルで働いていました。
大谷「『男はつらいよ』の、アンダーグラウンドとか社会のマイノリティの人たちに対する光の当て方がわかります。決して寅さんも母も、周囲に好かれるような人の描き方ではないんですよ」
落語っぽい
『続 男はつらいよ』は人間的に欠陥があるということを大前提に、寅さん親子が少しずつ寄り添っていくという内容。
大谷「実はこれ、若い時に観てすごく感動して。何でかって言うと、落語に似てると思ったんです。社会不適合者を周囲が笑って共有する。人が死なない。どうやって着地点を探すか?っていう落語の要素が『続 男はつらいよ』の中にあるんです」
ちなみに監督の山田洋次さんは落語を何本か書いています。5代目柳家小さんさんのために書いた「真二つ」「頓馬の使者」「目玉」が有名です。
太地喜和子さん、最高
そして3本目です。
大谷「もし1本しか見ちゃダメだって言われたら、これを見て欲しい」
それが17作目『男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け』。宇野重吉さん演じる画家と、太地喜和子さん演じる芸者が寅さんと絡みます。
大谷「太地喜和子さんが非常にいいんです。寅さんもそのキャラクターに引っ張られて、恋に落ちるっていうよりは、将来所帯持とうぜ、みたいな。『じゃあ、待ってるわ』とか言う感じのカラッとした関係」
この芸者さん、東京の男に騙し取られた200万円を取り戻しに東京に出てきます。当時、出資だけさせて、会社をわざと倒産させてお金を奪うということが社会問題になっていたそうです。
大谷「そういう影があるんだけど、太地さんは『寅さん、飲もっ』って、カラッとしてるんですよ。この悲劇に対してどう対抗するか?って感じで」
すっかり太地喜和子さんの演技にやられたようです。
いろいろ学べる
太地さん演じる芸者の名前は「ぼたん」。寅さんは、ぼたんに200万円用立ててやりたいために、宇野重吉さん演じる絵描きに、絵を描くように迫ります。プロとして断る宇野さん。やっぱり喧嘩になる寅さん。
大谷「だけど最後にこの絵描きさんがとった行動、そして最後のラストシーンで寅さんがやった行動。これこそあの時代の江戸っ子、日本人の粋ってこういうことだなって思いました。
プロとは何か?悲しい時にどう抵抗するか?そして最後に粋とは何か?が学べる『男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け』。傑作だと思います」
(尾関)
若狭敬一のスポ音
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2020年08月15日12時47分~抜粋