阪急ブレーブス(現オリックス・バファローズ)のエースとして活躍し、アンダースロー投手としては日本プロ野球最多の通算284勝を記録した、「史上最高のサブマリン投手」こと山田久志さん。
その大記録の裏には、当然多くの黒星もありました。メンタルをコントロールしなければならない局面もあったのではないでしょうか?
5月16日放送のCBCラジオ『若狭敬一のスポ音』では、若狭敬一アナウンサーが山田さんにプロ野球における「メンタル」について尋ねました。
負けず嫌い
若狭「メンタルは強い。やや強い。やや弱い。弱い。4つのうちどれですか?」
山田「自分が弱いとは思わんね。周りから見たら私はおそらく負けず嫌いに見えると思います」
例えばノーアウト満塁の場面でバッター、門田博光さん(南海ホークス)、あるいは落合博満さん(ロッテオリオンズ)と対戦する時には、阪急ブレーブスのエースとしてどういう心境だったのでしょうか?
山田「例えば、一点取られたら負け、外野フライ打たれたら一点取られて負けってそういう場面(をイメージすること)は全くないね」
マウンドでは相手打者を抑えること以外、考えなかったそうです。結果がどうなるかは、全く頭になかったんだとか。
結果に引っ張られる
山田「結果を考えてしまうと、まともにメンタルにぶつかってくるわけですよ。勝負師は勝負に賭けるのよ。結果じゃないのよ。門田との勝負に勝つのよ」
マウンドに上がれば、対戦相手を打ち取る。その一点に絞っていたそうです。
山田「でも、みんな、一番怖がるのは結果なんだよね。だから、一点取られたら負けだって、そっちの方へずーっと引っ張り込まれるんだよ」
やってみなければ結果などわかりません。
わからないことを心配してもしょうがない、というのが山田さんの考え方です。
勝負あるのみ
とは言え、どの試合も白星というわけにはいきません。
では、打たれてしまうのはどんな時なのでしょう?
山田「ここで負けるかもわからないとか外野フライ打たれたらイカンとか、そういうことを考えたら勝負にならない。私も弱気になる時もありましたが、そう考える時は、ほとんどやられた」
ワンアウト、ランナー三塁。内野が前進守備を敷いており、外野フライを打たれたら1点入ってサヨナラ負けです。こうしたピンチを迎えても「そんなことは俺には関係ないの」と言い切る山田さん。
解説山田、ピッチャー山田
さらにこんなシチュエーション。
0対0、9回の裏、ピッチャーはなんとかここまで0点で抑えてきましたが、ワンアウト、ランナー三塁。サヨナラのピンチ。内野前進守備。
解説者・山田久志の立場であればいろんなことを語ってくれます。
山田「まず内野ゴロ打たすためには、このバッターこうだから、こういうボールで、って言うよね」
若狭「そうそう。低めにまずは…」
山田「まずはフライは上げさせない。ゴロで内野抜けても、これは、まぁ諦めがつく」
若狭「そういう解説、よく聞きます」
山田「あわよくば最初はボールから入った方がいいとかって言うでしょ?」
若狭「塁も二つ空いてますからってね」
しかしあくまでも「あれは解説者の立場」と言い切る山田さん。
山田「ピッチャー山田がそこにいたら、全くそういうこと考えてない。まず目の前のこいつをやっつける」
へこむのは一瞬
打者との勝負に賭けるということは、外野フライで打ち取ったのですが、それが犠牲フライになってサヨナラ負け。
敗戦投手となった場合の心境は?
山田「全くすっきりしない。勝負に負けたんだから。負けは許されないのよ」
しかし黒星が付いてへこむかと思いきや…
山田「へこんでるようじゃ、次の試合、試合にならんもん。へこんでるのはシャワー浴びて家に着くまで。遠征であればホテルに着く頃には、さぁ今日はどこへ出て行こうかな?そういう考えですよ」
若狭「メンタル強ええなぁ!」
最後の抑えはまた違う
ドラゴンズの投手を例に出す山田さん
山田「岩瀬が9回に1対0とかで勝っててね、出て行くじゃない。ここでフォアボール出したらどうしよう?とか全く考えてないよ。考えたら抑えなんかできないよ」
岩瀬仁紀さん(現・野球解説者)の様にリリーフで毎日投げるようなピッチャーの心理はまた少し違うそうです。
抑え投手は、翌日、また同じシチュエーションで投げることもあります。重大な任務を全うできなかったり、黒星が続くこともあり得ます。
山田「そういう状態になった時は大変だよね。ただ連続でやられても、抑えやってるぐらいのピッチャーは平気だからね。チームに迷惑かけたとか、あいつの勝ち星を奪ってしまったなと思っても、そんなに深くは思ってないからね」
そうでないと、抑えは「やってられない」そうです。また、ちゃんとカバーしてくれる人もいるんだとか。
戦いの準備
最後に山田さんの必勝法を尋ねる若狭アナ。
いわゆるゲン担ぎなど、登板の時には勝つために何をしていたのかを聞きました。
山田「そういうのはなかったことはないけど、人には見せたくなかった。そういうことを見せるのは苦手。苦手っていうか避けてた。自分の弱みを見せてるみたいでイヤ」
そんな負けず嫌いの山田さんでも欠かせないことはありました。
山田「投げる日は、常に新しいパンツと新しいソックス。下着とソックスはまっさら。年間30試合投げるとしたら30枚は絶対いる」
一回身に着けたパンツとソックスは練習の時に着ていたそうです。
山田「試合の時は常に新しいの。今から戦場行くんですから、見えないとこをしっかりしておく」
現役生活20年で先発が447試合、最低でも447枚のパンツが消費されています。
(尾関)
若狭敬一のスポ音
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2020年05月16日13時10分~抜粋