元中日ドラゴンズ監督で野球解説者の山田久志さんが、2月23日放送のCBCラジオ『若狭敬一のスポ音』に出演し、昨シーズン限りで中日を引退した浅尾拓也さんについて言及しました。
山田さんいわく「プロ野球の犠牲者」という浅尾投手。山田さんの知るエピソードとは何でしょうか?
中継ぎの凄いピッチャー
浅尾投手の印象を語る山田さん。
山田「羨ましいぐらいのいい顔してるなと思ったよ。野球辞めても即ブラウン管で勝負できるなと思った。いまブラウン管って言わないか(笑)。
色白で目鼻立ちがはっきりして。なんか俳優さんみたいだもんね。
中継ぎ投手でMVP獲るってことは、これから先ありえないと思う。それだけ中継ぎの凄いピッチャーだった」
浅尾投手は2011年、7勝2敗、10セーブ・45ホールド、防御率0.41でセ・リーグMVPを獲得しています。
山田「ドラゴンズの黄金時代、落合政権は岩瀬と浅尾なくしては語れなかったと思うんだけども、申し訳ないけども、優勝チームにありがちな犠牲者」
長い準備がダメージになる
山田「必ず連覇するチームとか、優勝をずっと狙うチームには犠牲になる投手が出てくる」
5年、10年と常に優勝争いをしているチームにおいて、リリーフ投手は長く続かないそうです。19年間で1,002試合登板を果たした岩瀬投手が如何に偉大かが分かります。
山田「浅尾はいろんな場面で使われすぎたってこと」
岩瀬投手との違いを指摘します。岩瀬投手は8回か9回に登板する抑えのエースという使われ方でした。
浅尾投手の場合も一試合の間に投げる時間は岩瀬投手と同じかもしれませんが、前倒しがあったり9回に登板したりと、どこで起用されるかわからないため長いイニングの準備が必要でした。
常にブルペンで準備をしておくことが身体にダメージを与えるんだそうです。
監督には分かるありがたさ
山田「それはしょうがないんです。だからそういう人の評価は上げてあげなきゃ。私はコーチとか監督やってたから、そういう人のありがたさってよくわかる。使わなきゃ勝てないから、これは潰れると思っても使ってしまう」
山田さんも重い口ぶりになっていきます。
プロ野球の世界では、自分は今一番輝いていると思うと、なりふり構わず行くものか尋ねる若狭敬一アナ。
山田「行く。勝負師として行ってくれる。プロ野球選手として断るピッチャーはいない。それをカバーしてやるのがコーチなんです。
コーチが監督の手を引っ張って、ベルトを押さえて、『今日は浅尾は休ませましょう。こっちで行きましょう』というぐらいのコーチがいなかったら長続きはしない」
2010年日本シリーズ第7戦
若狭「浅尾拓也投手本人にもチラッと聞いて、さらに周りからいろいろ聞いたんですが…」
2010年、中日とロッテの日本シリーズ。中日は最後の第7戦、ナゴヤドームでロッテに破れました。負け投手は浅尾投手でした。
実はその日、浅尾投手は熱があり、試合前に医務室に運ばれていて、投げさせないはずでした。しかし、試合中にテンションが上がったのか浅尾投手は準備を始めて、自ら登板しました。8回の時点で6対7と負けていました。
森繁和コーチ(当時)は止めますが、本人の強い意思で9回に登板し無失点に抑えました。
中日はその裏、1点を返し、7対7の同点にしました。
美談か犠牲か?
ところが、浅尾投手は体調不良にも関わらず「次も行く」と主張します。
チームは追加点が取れません。「それでも行く」と言う浅尾投手。
熱血漢の森コーチは胸を打たれ「拓也、行け!」と送り出すこと4イニング目、12回に掴まりマウンドに散りました。
チームメイトは思わずベンチで涙ぐんでしまったということです。
若狭「あの日本シリーズ。これは美談と言えば美談、ただ犠牲者といえば犠牲者です」
山田「そういう試合を作るのは、首脳陣全体から考えたら良いことじゃない。負けたらダメなの」
熱があると意外と燃える?
「私も熱を持ちながら投げたことが何回もあります」と言う山田さん。
山田「マウンドへ上がったら、熱が38度あっても、それは興奮してる熱だと勘違いしてしまう。身体はもの凄く動くの」
風邪引いて寝込んでる時は全く動きたくない感じですが、ユニフォームを着てマウンドへ行くと全然違うんだとか。
山田「投げられるし、やれるもんなの。だからよく「今日風邪引いて熱あって欠場です』っていう選手の気持ちがわからないもん。結構燃えるぜ」
そういう無理をした時は、いつもと違って後から疲労感が増すそうです。
山田「その時の浅尾の疲れといったら、我々が計り知れない程のものがあったと思うよ」
浅尾の名前は語り継がれる
やがて浅尾投手の球速は、全盛期からはかけ離れたかのように落ち、昨シーズンは130キロ台でした。
かつて150キロ以上投げていた投手が140キロを出せないという現実を目の当たりにすると、本人は複雑な心境だっただろう、と推測する若狭アナ。
山田「150キロをボンボン投げてたピッチャーが130台に落ちたら、相手に与えるインパクトが全然違う。浅尾はそこまで落ちてたからね。
150キロの真っすぐからパームが来たらどうしようか?と思ってガチガチになってるのに、130?いらっしゃいですよ。こう見られただけでも負けただから。バッターとピッチャーってそこの勝負だから」
長いプロ野球の歴史の中で、強いチームには必ずと言っていいほど犠牲者が出て、それはしょうがないんだそうです。
しかし、最後に力強くこう語る山田さん。
山田「しかし、ドラゴンズというチームが残っていく限り、浅尾というピッチャーがいたことは永遠に語り継がれるからね。彼はそれだけの輝きを放ちましたよ!」
(尾関)
若狭敬一のスポ音
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2019年02月23日13時18分~抜粋