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書評家がおすすめの新刊小説を紹介!古内一絵『東京ハイダウェイ』

毎週水曜日の『CBCラジオ #プラス!』では、書評家の大矢博子さんがおすすめの新刊を紹介しています。

6月5日の放送でピックアップしたのは、疲れた時の隠れ家の大切さを感じさせる小説、古内一絵『東京ハイダウェイ』(集英社)です。

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あらすじ

タイトルにあるハイダウェイ(hideaway)の意味は「姿を暗ます」、そこから転じて「隠れ家」という意味でこの作品は使われています。

6つの短編からなる『東京ハイダウェイ』は、つらい状況にある主人公達が時には逃げ込む場所として、エネルギーを充填する場所として隠れ家に訪れたり、見つけたりする物語です。

第1話はインターネットで総合ショッピングモールに勤務する青年が主人公。
自分が担当する小売店の商品を全て試してからおすすめのコメントを書くなど真面目に取り組んでいますが、同じようにやって欲しいと他の店から注文を受けた同期から、真面目にコツコツやることを馬鹿にされます。

腹を立てている時、ランチタイムで同僚の女性がプラネタリウムに入っていく姿を見かけた主人公。入ってみると…?

第2話の主人公は女性の中間管理職。
母として妻として管理職として全てに100点を求められながらも、女性だからという理由で侮られ、母親としての価値観を押し付けられる毎日を過ごします。
疲弊しきってしまったある日、出勤中の電車から降りられず会社をそのままずる休み。
彼女が着いた先で見たものは?。

他にも特定の先輩のグループからいじめを受けている高校生や、40代でカフェの店長を任されてやりがいのある毎日なのに、母親から結婚の圧力をかけられ続ける女性、バブル期に入社して以降一切人と争わないのが処世術だと思っている男性、「パニック障害を抱えながら勤務しているが気を遣うから嫌だ」という周りからの無言のプレッシャーを感じている女性など、1話ごとに主人公が変わっていきます。

読みどころ その1

プラネタリウムだったり美術館の休憩スペース、喫煙可能な喫茶店だったり、ボクシングジムだったり。
それぞれの主人公はつらさが増してくると、ひとりだけで訪れる秘密の場所に出会ったりします。

そこに訪れたらといって問題が解決するわけではありません。
しかし気持ちを切り替えるきっかけになったり、心を休めたりする場所があるというだけで人は相当強くなれる…そんな姿が描かれています。

大矢「一歩引いて考えられる、冷静になる。そういった大切さがひしひしと伝わってくる」

また、登場する秘密の場所は実際に東京に実在するところばかりです。
自分の近くにも休まる場所が本当にあるんじゃないかと思わせてくれます。

読みどころその2

登場人物たちが緩やかにつながっているのもこの小説の魅力のひとつです。

1話に登場する上司が第2話の主人公。
1話の主人公から見た上司は何でも出来そうな人ですが、一方で2話ではその上司が様々なことを抱えて苦しんでいる姿が描かれています。

3話の主人公は2話の主人公のママ友の息子。
2話の主人公から見ると専業主婦のママ友は楽そうだなと思っています。しかし、そのママ友は息子のいじめで悩んでいるのが3話で発覚します。

周りからは見えないけれど、本人にしかわからない苦しみがあることが、この物語を通して多角的に見えてきます。

また主人公は高校生~50代。
主人公の親や子も登場するため違う年齢層や立場の人が出てきます。
その中には読者である自分と同じ悩みを持つ人、同じ境遇にいる人など、自分に当てはまる登場人物と出会う可能性があります。
そこから上手な生き方のヒントを得られるかもしれません。

自分の苦しみで手一杯になると、周りが見えなくなりがちです。
しかしどんな人にもその年齢や立場ならではの苦労があり、それでも皆心の隠れ家を持っていて、エネルギーをチャージして毎日暮らしている。

そんなことがじんわり伝わってくる『東京ハイダウェイ』。
大矢「ストレスや不安を飲み込んで今日も頑張るぞ、という人にぜひ読んでほしい、そういう物語です」
(ランチョンマット先輩)
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2024年06月05日08時20分~抜粋

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