森永大学 政治経済学部

【議論白熱】裁量労働制で日本経済は成長するのか?経営者と労働者のホンネを解剖

「もっと働いて、日本経済を成長させよう!」
そんな方針を掲げる政府や経済界に対し、労働者側からは「ブラック企業が増えるだけでは?」と強い懸念の声が上がっています。今回は、国会でも激しい議論が交わされている「裁量労働制」をテーマに、その仕組みの正体と、日本企業の働き方が抱える根深い問題について解説します。

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成果主義は本当に正解?ジャパン・アズ・ナンバーワンだった時代を思い出してほしい

1. 「働いて、働いて、働く!」方針に賛否両論

政府が掲げる「経済成長のために、働き方の見直しを進めていく」という方針。
これに対して、日本の経済界や労働界の意見は真っ二つに分かれています。

  • 経団連(経営者側)の視点: 「ぜひ推進してほしい!」 どんどん働いて会社の利益を増やし、経済を活性化させたいという、経営者としてのポジションからの賛成。

  • 連合(労働者側)の視点: 「絶対に反対!」 過酷な労働環境に追い込まれる労働者を守る立場から、「ブラック企業が増える可能性がある」という反対。

この対立は、どちらが正しいというよりも、
それぞれの「立場(ポジション)」の違いから生まれているものです。
 

2. そもそも「裁量労働制」のカラクリとは?

日本の労働基準法では、原則として「1日8時間、週40時間」が労働時間の上限とされています。それを超える場合は、いわゆる「36(サブロク)協定」を結んだ上で、残業代(割増賃金)を支払うルールがあります。

これに対して、今回議論になっている「裁量労働制(みなし時間)」は、全く異なる仕組みです。

  • 定額で働き放題?: たとえば「月給30万円」と契約したら、1ヶ月にどれだけ短い時間しか働いていなくても、逆にどれだけ長く残業したとしても、一律で30万円が支払われます。

  • 対象となる職種: 現在は、弁護士や記者、コピーライター、証券アナリストなどの「専門業務型」、あるいは本社の経営企画部などの「企画業務型」といった一部の専門職に限って認められています。

一見、効率よく成果を出せば早く帰れる自由な制度に見えますが、ここには日本特有の「ある落とし穴」があります。
 

3. なぜ「残業時間の長さ」が評価されてしまうのか

経営者側がこの制度を導入したい本当の狙いは、「時間ではなく、成果で評価する働き方」に変えたいからです。

しかし、日本の多くの企業には、部下の成果を正しく評価する軸があやふやな風潮があります。その結果、何が起きるでしょうか?

  • 「長く会社にいる奴がエラい」という勘違い: 成果を見られない上司は、「どれだけ残業したか」「どれだけ朝早く来ているか」「飲み会への参加率」といった、時間や態度でしか部下を評価できなくなります。

  • ダラダラ残業の温床: 要領よく定時で帰る有能な社員が「やる気がない」と低評価を受けやすく、ダラダラと残業している社員が「頑張っている」と評価されかねない状況が、長年続いてきたのです。
     

4. 恐ろしい「定額使い放題(サブスク)」の罠

もし、文化のもとで「裁量労働制」が導入されたらどうなるでしょうか。

会社側は、到底終わるはずのない膨大なノルマを部下に課すことができるようになります。そうなると部下は終わらせるために夜遅くまで残業するかもしれませんが、裁量労働制なので残業代は1円も出ません。

これこそが、反対派が恐れる「労働者のサブスク(定額使い放題)化」です。残業代を出さずにいくらでも働かせることができるため、悪用されれば過労死やメンタルヘルスの悪化を招く危険性があります。

 

最後の論点:本当に裁量労働制で経済は活性化するのか?

「成果主義のアメリカ型こそが素晴らしい」と、アメリカ帰りのエリートたちは言います。アメリカは契約社会であり、成果が出なければすぐにクビ(解雇)にできる冷徹な合理性を持っています。

しかし、かつて日本が世界でバリバリに存在感を示し、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と称賛されていた時代、日本の企業が採用していたのは、いまや批判の対象となっている「終身雇用」や「年功序列」といった日本型経営でした。

安易にアメリカの形を真似て労働時間をうやむやにすることが、本当に日本経済の再生につながるのか。それとも、かつての日本型経営の中にこそヒントがあるのか。私たちは今、大きな分岐点に立っています。

 

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本記事の内容は、2026年5月29日配信のポッドキャストの内容に基づいています。


 

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