運動後の水分補給は熱中症予防などのために欠かせません。
しかし、かつて教育現場では「部活動の最中に水を飲んではいけない」と指導されていました。
8月30日放送のCBCラジオ『北野誠のズバリ』には、62歳の女性から「昔はなぜ部活で水を飲んではいけなかったの?」との質問が寄せられました。
この問いに対し、心療内科本郷赤門前クリニック院長で医学博士の吉田たかよし先生が答えます。
水分補給禁止の医学的根拠
まずは詳しい質問の内容です。
「10代の頃、部活で喉が渇いても『水を飲んではいけない』と言わていました。真面目人は言いつけを守っていましたが、私は校庭の隅の水道からごくごく飲んでいました。
近頃は運動時に水分は補給しなければならないとの認識に変わりましたが、いったいあの水禁止令の医学的根拠は何だったのでしょうか?」(Aさん)
その前に「運動する時は水を飲むべき」との意見が、医学的にそもそも正しいのかを尋ねる北野誠。
吉田「もちろん熱中症や脱水症状の予防のために水分を補給した方がいい、というのは医学的に確かなことです」
しかし「その飲み方が大事」と続ける吉田先生。
吉田「飲み方が悪いと健康に悪影響が出ることもあります。昔は水を飲んではいけないと言われていた、その理由を知ることで、いま私たちにとって正しい水分の補給のチェックポイントが見えてきます」
水禁止の3つの理由
かつて運動中に水を飲むことが禁止された根拠は何でしょうか?
吉田「主に理由は3つあります。ひとつは根性論。『スポーツは苦しみに耐えてこそ上達するんだ。水を飲むなんて甘えだ』という考え方がありました。これは医者として賛同できません。
ところが、残り二つはそれなりに医学的な意味があります。
当時は運動の休憩時間に大量の水を一気に飲む人が多くて、それで胃が急激に冷えて自律神経の悪化でバテるというケースが多かった。
さらに大量の冷たい水が急激に胃にいくと、その先の十二指腸に進まないのでなかなか吸収できない。そのため飲んだ水分が胃にたまったままになって、動くたびに胃の中でちゃっぽんちゃっぽんと動いて、身体の動きが悪くなっていました。
こういう現象が起きうるのは今でもありますが、それ以上に熱中症の方がはるかに危険なので、現在では水分を取るように奨励されています。水分は少しずつこまめに補給すれば、こんな問題も起きません」
水中毒のおそれ
さらに3つ目の理由を挙げる吉田先生。
吉田「喉が渇いている時に大量の水を一気に飲むと、血液中の塩分の濃度が下がって水中毒になることがあります。めまい、頭痛、吐き気、重症化すると昏睡とか呼吸困難を起こすこともあります」
実は1980年代、医者の間では運動の合間に水分を補給した方がいいことが知られていました。しかし、水中毒になる人がいるかもしれないことを恐れて、声高に水分補給を主張しにくい事情があったそうです。
吉田「その結果、世間の常識が変わるのが20年くらい遅くなりました」
とにかく塩分補給?
水中毒予防のためにも塩分補給の必要性を説く吉田先生。
しかし汗のかき方によって、塩分の補給にも注意が必要と続けます。
吉田「汗には一気に大量にかく汗と、じわじわとかく汗と2種類あって、取るべき対応が異なります。
スポーツしている時には玉のような汗がでますが、この時は汗には塩分が含まれているので、水分だけでなくて汗で失われた塩分を補う必要があります。
一方、目に見えないようにうっすらとかく汗には塩分が含まれてないことが多いです。この場合、水と一緒に塩分を補給しすぎると血圧が上がります。
特にエアコンがきいている室内にいると、脱水は起きているので水分の補給は必要ですが、この場合は塩分を補給する必要はないです」
スポーツドリンクは飲み過ぎ注意
汗をかいたらスポーツドリンクを飲むという方も増えています。しかし「普段から飲むのは勧めない」という吉田先生。
吉田「スポーツドリンク、経口補水液はよくできていて、含まれている塩分のイオンと糖分の濃度が絶妙のバランスになっていて、十二指腸でさっと吸収されます。
だから、スポーツする時はスポーツドリンクがいいし、熱中症の症状が出た時は、すぐに水分塩分を補給するために経口補水液がいいです
が、普段そういうものを頻繁に飲んでいると、塩分の取り過ぎで高血圧、糖分の取りすぎで高血糖になり、心筋梗塞、脳梗塞、生活習慣病になります」
経口補水液はいざという時のために1本か2本備蓄しておいて、汗が噴き出してくるような状態でなければ、普段は水を少しずつ小刻みに補給するのがベストだそうです。
(みず)
北野誠のズバリ
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2024年08月30日14時13分~抜粋