北野誠のズバリ

IPS細胞を使った「網膜色素変性症」治療の最前線とは

『北野誠のズバリ』、健康の悩み、夫婦の悩みなどを解決する「中高年よろず相談室」のコーナー。

3月26日の放送で取り上げたのは、網膜色素変性症を患うAさんからのおたより。

心療内科本郷赤門前クリニック院長で医学博士の吉田たかよし先生に、「IPS細胞を使った網膜色素変性症治療の最新情報」についてうかがいました。

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国内4万人が苦しむ難病

「僕は網膜色素変性症による視覚障害者です。最近、その網膜色素変性症に対して今月IPS細胞による網膜再生の臨床試験、移植手術が神戸の病院で始まったことをニュースで知りました。
もしも網膜細胞への有効性が認められた場合、普通に僕が治療を受けられるようになるまでには何年かかりますか。教えてください」(Aさん)

網膜は目の奥にあり、スクリーンの役割をしています。
そこに当たった光を感じ取ることで、物が見える仕組みです。

網膜色素変性症は、その部分に異常が生じて視力がどんどん低下し、失明してしまうことも多い怖い難病。国内では4万人が苦しんでいます。

原因は遺伝の関係が指摘されているものの、根本的な原因はわかっていません。

一次的に視力をやや改善させる薬はあるものの、根本的に治す薬は存在しないため、患者さんの不安や苦労は深刻です。
 

壊れた部品を新しい部品に取り換える

京都大学の山中伸弥教授が開発した「IPS細胞」は万能細胞と呼ばれていて、条件さえ整えば人体のどんな細胞にも変化しうるもの。

正常な網膜の細胞を作っておくことで、壊れた網膜の細胞の代わりをさせることができます。

「洗濯機でもパソコンでも、機械が故障したら、壊れた部品を新しい部品に取り換えることで直りますよね。原理はこれと同じ」と吉田先生。

IPS細胞による網膜色素変性症の治療は、昨年10月に神戸市立神戸アイセンター病院で初めて行われました。

今回はそれを50人規模に拡大して行うことが発表され、その一部はすでに始まっています。
 

網膜治療が進んでいる理由

網膜治療は、IPS細胞を使った治療の中で最も進んでいる分野です。

「壊れた部品を新しい部品に取り換える」という点では、全身どこの病気でもできます。

しかし、怖いのは埋め込んだ細胞がガン化してしまうことです。

網膜治療が進んでいる理由は、「網膜は外から見える」から。

医者が目視で簡単に観察ができることで、安心して臨床研究を継続できるため、この分野が最も進んでいるのです。

7年前、神戸アイセンター病院では、別の網膜の病気「加齢黄斑変性」にIPS細胞を使った治療が行われ、ある程度の効果がありました。

今回は網膜色素変性症の治療に対して、臨床研究が行われることになったのです。
 

普通の治療になるのは20年後?

7年前の治療では、直接かかった費用だけでも5000万円~1億円。

治療技術を高めるには臨床研究の数を増やす必要がありますが、この莫大な費用が足かせになっています。

吉田先生は「誰でもこの治療を普通に受けられるようになるのは、恐らく20年後ぐらいではないか」と予想しているそうです。

臨床研究の結果が順調であれば、全国の他の病院でも行われるのが通常のパターンなので、いずれ名古屋でも行われる可能性は十分にあります。

「20年は待てないと思うけど、応募されるという手はありますよね」と、吉田先生はAさんに臨床研究への参加を勧めます。
 

患者の費用負担は一切なし

臨床研究はかなり費用がかかる治療ですが、患者さんに費用負担は一切なく、病院に行く交通費の一部も支給されるのが一般的。

一方で、研究段階での治療は恐怖も伴うのも事実です。

当然危険性はあるものの、すべて病院の倫理委員会で厳密に審査されるため、いわゆる人体実験のような怖いものではありません。

しかし、データを取るためにたくさんの検査を受ける必要があるので、どうしても拘束時間が長くなってしまいます。

とはいえ「徹底的に調べてもらえるので、患者さんにとっては安心というメリットもある」と吉田先生。

現在の主治医に、臨床研究への参加を強く希望していることを伝えておくと、募集があったときに教えてもらえるし、紹介状も書いてもらえるそうです。
 

臨床研究に参加する覚悟

しかし、IPS細胞を使った臨床研究はニュースに取り上げられているため、希望者が大変多くなっています。

吉田先生いわく、臨床研究に参加するために今からやっておくべきなのは「IPS細胞の危険性について可能な限り勉強をして、受ける覚悟を固めておく」こと。

世界医師会が作成した倫理規定「ヘルシンキ宣言」では、臨床試験が始まった後でも、患者には研究参加をやめる権利があると定められています。

しかし多額の費用が無駄になってしまうため、途中で参加を辞退されてしまうのは、医者にとってはもちろん辛いこと。

危険性についての理解があり、覚悟を決めて参加する患者さんを優先したくなる心理が、選ぶ側の医者には当然あります。

医者が事前に面接をして、臨床研究に最後まで参加する覚悟がある人かどうかを見るそうです。

「税金も入っているので、あとから『税金ムダ遣いだ!』と医者が怒られちゃうのでね」と、臨床研究の実情を教えてくれた吉田先生でした。
(minto)
 
北野誠のズバリ
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2021年03月26日14時13分~抜粋

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