北野誠のズバリ

選挙買収事件で気になるワード「地盤培養活動」って何?

昨年の参議院議員選挙を巡る大規模な買収事件で起訴され、初公判で無罪を主張した河井克行前法務大臣と妻の案里参院議員が3回目の保釈を請求。
これに対して東京地裁は、8月26日に却下しました。

この事件では、河井克行議員が地元の議員など100人近くに2,900万円あまりを配ったとして、公職選挙法違反の買収の罪に問われ、妻の案里議員も5人に170万円を配った罪に問われています。

実はこの買収事件、今までの買収事件と異なる点が注目されています。

8月29日放送『北野誠のズバリサタデー』では、角田龍平弁護士がこの事件の特徴について解説しました。

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被告・検察、両者の主張は?

公職選挙法上の買収罪は「当選を得るまたは得させる目的で選挙に投票する人や選挙運動をする人に対して金銭等の供与をした場合に成立する」ため、検察は案里被告に対する投票や投票に対する取りまとめを依頼する目的だと主張。

それに対し河井議員側は、配ったお金については寄付や陣中見舞い、当選祝いだと反論しています。

さらに「両議院の地盤培養活動の一環として、将来有望な地元政治家に寄付をして、実務上慣習として行われ、法的にも許容される政治家活動に伴う現金供与だ」とも主張しています。

ここで引っかかるのが、「地盤培養活動」というあまり耳慣れない言葉。

何か微生物が増えていくようなイメージですが、要するに政治的な地盤を固めるということ。

「地盤を固めるためにお金を配りましたが、それは政治活動としてはよくあること」というふうに感じられるこのフレーズ。
北野誠も「その河井夫妻の主張も妥当やとは思わへんけどなあ」としっくりこない様子。
 

検察の主張は通るか?

しかし角田弁護士は、今回の検察側の主張は珍しいケースだと解説します。

角田「今までの公職選挙法の買収罪の運用というのは、多くが選挙運動の期間中であったり、直近とかの場合で露骨に『この人に投票してな』ってお金を渡すとか、ウグイス嬢や選挙運動をしてる人に法律で定められているお金以上に渡したりとか、そういう場合に一般的に適用されてきた。

今回、実は河井夫妻がお金を渡しているのが公示の3か月以上前やったりとか、ずいぶん前やったりもするんですね」

選挙期間から離れている場合は、買収として問われるケースが今までなかったようです。

角田先生「ただ、公職選挙法上には『当選を得るまたは得させる目的で選挙人または選挙運動者に対して金銭等の供与をした場合に成立する』ってなってて、別にだいぶ前やったら、お金渡してええとも書いてないんですね。

ただ運用上、たぶんこういうふうな反論(寄付や見舞いなど)をされる可能性があるから、今まで買収罪を事実上適用しないという運用をしてきたというだけやとは思うんですけど」
 

証拠を隠そうとした疑い

とはいえ北野は、寄付なら寄付で政治資金報告書に書かれていないことに疑問。角田弁護士も「領収書のやり取りがないのはおかしい」と指摘します。

さらに検察は、お金を配ったリストが格納されたパソコンのフォルダを「復元不可能な形で削除してくれ」と河井克行被告が業者に依頼していたことを明かしているため、買収と認識していた可能性があります。

ちなみにこのフォルダは復元不可能になったものの、他のパソコンに残っていたそうです。

北野「業者に依頼するよりドリルや。あと、電子レンジで爆破させるかや。アメリカのスパイ映画なんかでよく使われる。

あとは『半沢直樹』(TBS系)で『すぐさま(証拠のメールを)消せー!』って言ってた顔芸で消すか」
 

もらった側は罪にならない?

今回の事件についてもう1つ気になるのが、お金をもらった側の罪があまり問われていないこと。

当然、もらった側も罪に問われるような気がするのですが…。

角田「もらった方も通常は金額によって(罰せられ方が異なる)、例えば5万円以下やったら略式やけどそれ以上やったら公判請求されたりとか、起訴されるのが一般的な運用だったんです。今回はそれがないと。

ただ起訴するとも不起訴にするとも、どちらの判断もしてないんですね。

もしかしたら場合によっては、これから行われる裁判で、検察のストーリー(に沿って)投票の取りまとめを依頼する趣旨で現金を供与したと言ってくれた人は起訴しない、そうじゃない証言をした人は起訴する。

さすがにそこまで露骨にしないと思うんですが、(お金を受け取った側は)地方の議員や首長やったりするんで、公職選挙法で起訴されると失職する可能性があるんで、そこは言わずもがななんですよね」
 

今後の裁判の見通し

実際に今後、お金をもらった側がどう扱われるのかはわかりませんが、ある意味司法取引のような感じもします。

角田「ただ微妙なのは、取りまとめの趣旨で渡したというよりは、もしかしたら今回は対立候補の溝手(顕正元防災担当相)さんという方がずっと当選してて、『その人にあんまり協力せんといてな』というぐらいの趣旨やった気もするんです。

もちろん公職選挙法の買収罪には当たると思うんですけど、もらった側もそんなつもりはないけど、確かにもらったしっていう」

最後に角田先生は今後の選挙の見通しについて、「弁護側は公職選挙法が司法取引の対象外なのに実際はそのような取引を行っているという点を突いて、もらった側の証言の信ぴょう性は薄いと主張すると思う」と語りました。

今までは実質黙認されていた選挙前にお金を配ることが、果たして法を厳格に適用することで罪となるのか、裁判の結果によっては、今後の地方政治も見直されるかもしれません。
(岡本)
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2020年08月29日09時20分~抜粋

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