2月15日放送の『つボイノリオの聞けば聞くほど』では、ちょっと変わった昆虫の研究者に関する本を取り上げました。
昆虫が好きだというだけでは、なかなか生活していくことができないこのご時世。
バッタの研究者が体験した、サハラ砂漠での壮絶なフィールドワークの様子と職業を得るための苦労について、ユーモアを交えて綴ったの本、『バッタを倒しにアフリカへ』(光文社新書)が、毎日出版文化賞の特別賞など、数々の賞を受けて話題となっています。
毎回面白い本をお勧めするのは、高野史枝さんです。
バッタ研究者の赤裸々な心境を綴った本が話題!
バッタ研究のためアフリカへ
まずこの新書は、いきなり表紙から度肝を抜かれます。
顔から服から真緑色で、バッタのコスプレをした男性が網を持っている写真が載っているのですが、実は著者の前野ウルド浩太郎さんで、現在37歳。日本でもこの格好で講演しているそうです。
こどもの頃から虫が大好きで、神戸大学大学院を卒業し博士号まで取得したのですが、日本ではバッタの被害がかなり少ないからか研究はあまり行われておらず、バッタ関連の職に就くことはできませんでした。
「日本よ、バッタの被害を受けろ!」というネガティブな祈りも通じませんでしたが、他に外国で被害を受けているところはないか探したところ、アフリカではバッタの大群に大きな被害を受けていることがわかり、前野さんは31歳で西アフリカのモーリタニアに渡りました。
アフリカにまでやってきたのに…
モーリタニアと聞いてもピンと来ない方が多いと思われますが、それもそのはず、前野さんが渡った当時、日本から来ている人は13人ほどしかいなかったそうです。
そして前野さんは2年の予定でモーリタニアに行く際、大好きなお酒をたくさん持って行ったそうですが、イスラム教だったために入国の時に没収された上、その年は大干ばつでバッタが少ない時期に当たってしまうという、ダブルパンチを食らってしまいました。
滞在していてもお金はなくなるわ、バッタはあまりいないので研究もできない、あちこち出かけた時にサソリに刺されるなど苦しい日々が続くのですが、本では当時の心境が面白く書かれています。
ちなみに作者名にある「ウルド」ですが、これは「○○の子孫」という意味で、モーリタニアの人と仲良くなると「お前は俺の子孫だぞ」という親愛の意味を込めて、名前に付けてくれるそうです。
研究者の辛い現状
前野さんはまた、アフリカから戻っても日本で再び暮らしていけるのかという悩みを抱えていたそうです。
昔は博士号を取得した後、大学に採用され教授へ進むというコースがあったのですが、今は「オーバードクター」と言って、博士の学位を取っても就職先がなかったり、研究助手になってもかなりの薄給だったりするため、「高学歴ワーキングプア」と呼ばれる状況を生み出しています。
正式な研究員で採用されるのを待ちつつ、講師として1コマ1万円、週に5~6コマで月給の手取りが20万円ほどという方が多いそうです。
また、自分が携わる研究が政府のプロジェクトに採用されれば、しばらくは生活できるのですが、それも2~3年で終了するため、安泰というわけではありません。
ダメなのは当然ですが、「早く不安定な身分から抜け出したい」という焦る気持ちから、論文のねつ造をしてしまう土壌を生み出しているとも言えるそうです。
ここで高野さんは、「前野さんが凄いのは、自分の境遇を逆手に取ってこんなに貧乏な研究員がいるということを本やブログなどで発信し、有名になることで現状を伝えたこと」と感じたそうです。
また高野さんは、前野さんの文才を高く評価しており、その一例を紹介しました。
前野さんがアフリカから帰ってきたばかりで、日本語がうまく書いたり話せたりできなかった時、「え」と書くつもりが「ん」になってしまうこともあったそうですが、自分の本のサイン会で、サインに「ちえこさんへ」と書こうとしたら……。
最後に高野さんは「センスがちょっとつボイさん寄りの……」と語っていました。
(岡本)
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