●教えてドクター |
名古屋大学医学部附属病院 老年内科
鈴木裕介 先生
認知症をすでに発症した患者さんを対象に、アミロイドベータがたまらないようにする薬を使ったとしても効果が認められないということが過去の臨床試験ではっきりしてきました。そういった反省をもとに近年の臨床試験の開発ではアミロイドベータがたまらないようにする薬をなるべく早い段階、つまり臨床症状が出るか出ないかの軽い物忘れぐらいの段階の人達を対象として考えています。それでも成功しない臨床試験はたくさんありました。最近、某メーカーがアメリカのメーカーと共同開発した薬が、認知症の症状がごく軽度の人に対して、場所や時間が判断できるようになったり、家事を行う能力やお金の管理能力が改善したりしたといった改善が観察されました。そこで日本やアメリカやヨーロッパで、現在その薬の承認を申請しているところです。我々もその薬がすぐ現場で使用できることを願っていますが、例えばアメリカですと薬を認可するのは食品医薬品局(FDA)なのですが、臨床試験の結果にもう少し追加の情報が欲しいということでまだ承認がおりていません。最終的に承認するかどうか決まるのがおそらく今年の6月だと思います。ですから日本で承認されるのはそれよりさらに遅くなると思います。日本では今年の年内に承認されるかどうかといったところです。しかもそれはアメリカのFDA が承認する時期によります。この薬が承認されれば画期的なことだと思います。今までは認知症の症状が明らかになった人の進行を少しでも遅らせるというのが治療の主な戦略でした。しかし現在承認を待っている薬はそうではなくて先制攻撃で症状が出る前、あるいは出るか出ないかの頃に薬を使って、症状が生活の機能を障害しないようにするものです。根本的な治療と言い切れるわけではありませんが、病気の本体に迫る治療が、間もなくお届けできる段階に来るかもしれないという状況です。この薬についての最大の課題は認知症の人全てに使っても意味が無いということです。先ほども申し上げましたが、例えば認知症が明らかになって、すでに生活機能障害が出てきている人、つまり初期の症状を過ぎている人にこの薬を使っても効き目が期待できません。このことについては数限りない臨床試験によって明らかになっています。つまりごく初期の症状の人にしか効果がありません。一番理想的なのは臨床症状が出る前ですが、今の我々の通常の診療においては識別のしようがないです。難しい課題を抱えながらも、新しい展開が期待される薬の承認が待たれているのが現状です。