●教えてドクター |
名古屋大学医学部付属病院 老年内科 教授
葛谷雅文 先生
新型コロナウイルス感染症は急激に症状が悪化するケースがあります。その時に本人が意思表示や判断ができるかどうかというと、できないケース非常に多いです。そういった場合に、どういった方向で医療を進めていけば良いか?どういった方法でケアしたら良いか?ということに関するご本人の望んでいる内容・情報がわからない、ということになります。そうなるとご家族が決めなければならず、非常に悩むことになり、ご家族に負担がかかります。また何より、ご本人がもともと希望していた医療やケアが受けられない可能性があります。そういう意味ではご本人に事前に希望や意思表示を行っていただくことにより、医療の提供などがスムーズ進みますし、ご本人にとっても自分の受けたい医療を受けられることにつながると思います。
去年欧米では新型コロナウイルス感染症の患者さんが日本以上にたくさん発生し、医療現場ではどの患者さんを集中治療室に運ぶか?どの患者さんを人工呼吸器に繋げたら良いか?などの判断に迫られました。あまり使いたくない言葉ですが、いわゆる見極め(トリアージ)が行われていた状況でした。欧米のある医療機関では画一的に年齢で判断していたという例もあります。例えば海外からの報告ですが、80歳以上の人は集中治療室には入れないとか、80歳以上の人は人工呼吸器に繋げないなどというような見極め(トリアージ)が行われていたという事例です。そのように画一的に年齢で判断してしまうのが本当に良いかどうか?ということが世界的に大きな議論になっています。日本老年医学会では以前から「高齢者には最善の医療を受けていただく権利がある」ということを主張しています。最善の医療とは、必ずしも最先端の医療という意味ではなく、高齢者が望む医療を受ける権利があるという事です。
この度の新型コロナウイルス流行期において、高齢者が希望する医療を受けられるために今回「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行期において高齢者が最善の医療およびケアを受けるための日本老年医学会からの提言-ACP 実施のタイミングを考える-」を提言しました。高齢者というのは同じ年齢であっても様々な状況の方がおられます。同じ80歳の方でも非常にアクティブで元気な方もおられれば、そうでない方もおられます。ですので年齢できっぱりと決めてしまうのは、ある意味年齢差別(エイジズム)に当たるのではないか?という主張につながります。個々人が受けたい医療やケアというものは医療者としても知りたい部分です。ご本人の望む医療やケアを実践するためには、やはり事前にかかりつけ医やご家族と話し合っておいていただき、それをご家族にしっかり伝えておくということが非常に大事だと思います。