●教えてドクター |
名古屋大学医学部付属病院 老年内科 教授
葛谷雅文 先生
コロナ禍でのお年寄りの治療選択についてのポイントですが、一番望ましいのは事前にご本人の希望する医療やケアが明確にされていることです。医療現場にとってもそれは貴重な情報になります。ご本人とご家族の意思は最も大切だと思いますが、さらにかかりつけ医や看護師など医療者も一緒に話し合いがされているのが理想的です。
ACP(アドバンスケアプラニング)や人生会議などという言葉で言われますが、どんな治療を受けたいか?どんな治療を受けたくないか?どのような人生観を持って生きているか?を話し合い、情報共有をしておくことはとても大切です。この事については厚生労働省も日本医師会も国民の皆さんに対して情報発信をしているのですが、なかなか広まっていないのが実情です。まだこういった考え方が十分に知られていないことと、人生の最終段階についてのテーマは言い出し辛いことが要因だと思われます。こういった話し合いを進めるためには話し合いをサポートするファシリテーターとなる人が必要ではないかと思います。
事前に自分の希望する医療・ケアについて情報共有する取り組みが重要であるということには理由があります。私は名古屋大学付属病院に勤務していますが、急性期で来院される患者さんも多いです。その際、ご本人は意思表示できないような状況で来院される方も多いです。そういった場合の医療方針・選択などの希望はご本人から聞き出すことができませんのでご家族に相談することになります。しかしご家族も急に尋ねられても、今まで医療や治療に関する希望や選択の話などしたことはなく、「どんな人生観を持っているか?」「どんな医療・ケアの希望を持っているのか?」といった情報はお持ちでない方がほとんどです。ご家族もとても悩まれますし、医療者サイドもなかなか決断できないので医療の提供が進まないというジレンマが起こります。またご存知のように昨今は新型コロナウイルスが流行している状況で、平時より急性期の患者さんが多くいらっしゃいます。そういった時にご本人の意思がよくわからないと、どのように医療やケアを進めるかの決断が進まないケースが多くなります。そこでやはりACP(アドバンスケアプラニング)をもっと推進した方がいいのではないかという話が出てきているのだと思います。