小堀勝啓の新栄トークジャンボリー

三世代が関わった映画『いまは むかし -父・ジャワ・幻のフィルム-』

数々のドキュメンタリー映画を制作してきた伊勢真一監督の最新作『いまは むかし -父・ジャワ・幻のフィルム-』が、この秋から公開中です。
今回の新作はドキュメンタリー映画編集者の父親が遺した国策映画を描く物語です。

9月26日放送の『小堀勝啓の新栄トークジャンボリー』では、パーソナリティの小堀勝啓がこの作品を紹介しました。

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伊勢長之助

この映画は伊勢真一監督が、父である伊勢長之助さんの仕事を追いつつ、第二次世界大戦に触れていくという映画です。
長之助さんは戦前、戦中、戦後を通じて「記録映画編集の神様」とも言われ、数々の記録映画の構成や編集に携わってきた方です。

戦時中はインドネシアに派遣されて、日本映画社のジャワ支局の中心スタッフとして、多数の映画を撮りました。
 

時代は南進政策真っただ中

当時の日本は、アジアの人々を欧米の支配から解放する、同じアジア人として共存共栄のために戦うというスローガンの元、欧米の植民地だった東南アジアに出兵していきました。

小堀「これはあくまで名目。欧米を追い出して、その支配にとって代わろうというのが本音ですわ」

当時の日本が狙っていたのは、イギリス、フランス、オランダが植民地支配をしていた国々から取れる豊富な石油、ゴムなどの資源確保にありました。
 

父と同じ道を行く

当時は軍部が武力で侵攻していく一方で、文化部隊は精神的な侵略を担っていました。
手段は国策映画によるプロパガンダの流布。

真一監督の父、伊勢長之助さんは、この国策映画の制作に携わっていました。

今回、長之助さんが携わった多数のフィルムがオランダで見つかったことで、そこから映画という作業を通じて、父のこと、戦時中の映画人のこと、それから侵略されていた東南アジアの人々のことについて、真一監督は映像を通じて想いを馳せます。

真一監督も、期せずして父と同じドキュメンタリー映画の道に進んだのですが、実は両親は早くに離婚していたため、長之助さんとはドキュメンタリー映画の話をする機会も、戦争の話もしたことがなかったんだそうです。
 

父の作った国策映画

今回、伊勢真一監督は父の足跡をたどる旅で、オランダで130本にも及ぶ貴重な戦時中の国策映画のフィルムを発見します。父、伊勢長之助さんが関わったフィルムです。

発見された映画は、町内協力の名のもとに組織された隣組という相互監視システムについての作品『隣組』、こども達に軍国主義を叩き込む『東亜のよい子供』『防衛義勇軍』などといったプロパガンダ映画だったそうです。

中にはアニメを駆使して衛生教育をする『マラリア撲滅』という作品もあり、決して軍事一色だったわけでもないようです。

こういった作品にインドネシアを入れて、戦時中に各地を巡回上演していたんだとか。
敗戦で日本が引き上げた後は、再びオランダの植民地支配が戻ってきます。
その際、伊勢長之助さんの作った国策映画は資料としてオランダに没収されたということです。
 

当時の現地の状況

今回の『いまは むかし −父・ジャワ・幻のフィルム−』では、戦中を生きたインドネシアの人々のインタビューがあります。

その中の質問で、知っている日本語は?と聞くと「ありがとうございます」「どういたしまして」「君が代」とかの中に、「バッキャロー、ぶっ飛ばすぞ」というような言葉も出て来たそうです。

小堀「『この言葉が出ると、手も足も飛んできて怖かったよ』とか、なかなかの横暴な日本の支配ぶりがあったんだなとわかりました」

また、歳をとった女性のインタビューでは、「連行の上レイプされるから、日本兵を見たら家の中に隠れろ」と言われたという生々しい話もあったそうです。
 

映画にしがみついた人

真一監督の父、長之助さんは敗戦後、日本に引き揚げた後も記録映画を制作しました。
その中には、あの東条英機らが死刑判決を受けたドキュメンタリー『東京裁判 世紀の判決』も含まれます。

長之助さんは、戦争とは関係なく『南極大陸』『日本万国博』など、時代を切り取った作品も数々残しているそうです。

真一監督は、長之助さんのことを「時代に押し流されながら必死に映画というものにしがみついて生きた人」と称しているんだとか。
 

三世代が関わった映画

真一監督は、『いまは むかし −父・ジャワ・幻のフィルム−』という映画を通して「メディアが戦争に対してどのような役割を果たしたのか?これに触れることは今に繋がっていく重要なテーマではないか?」と語っているそうです。

また、この作品では真一監督の息子である朋矢さんがプロデューサーとして、娘で女優の佳世さんも参加していて、親子三代が関わった作品になっています。

小堀「この映画の締めの言葉、『いまはむかし むかしはいま』という言葉が、なかなか心に沁みる作品になっています」

東海エリアでは10月9日から名演小劇場(名古屋市東区)で公開予定です。
(尾関)
 
小堀勝啓の新栄トークジャンボリー
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2021年09月26日11時03分~抜粋

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