小堀勝啓の新栄トークジャンボリー

熱い思いで舞台を映画に。『祈り -幻に長崎を想う刻-』

8月13日から公開中の映画『祈り -幻に長崎を想う刻-』。
被爆後の長崎を舞台にした戯曲『マリアの首-幻に長崎を想う曲』を映画化した作品で、主演は高島礼子さんと黒谷友香さんが務めます。

22日放送のCBCラジオ『小堀勝啓の新栄トークジャンボリー』では、松村克弥監督がリモート出演しました。
松村監督は8月9日の長崎原爆犠牲者慰霊平和祈念式典に、長崎市長からの招待を受けて参加したされたそうで、映画に賭ける熱い思いを語りました。

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原爆投下から12年後

舞台は、原爆の投下から12年後の長崎市。

闇市で自分の詩集を売りながら、かつて自分を犯した男を追う黒谷友香さん演じる忍。
首に被ばくの跡がある看護婦であり、娼婦である高島礼子さん演じる鹿。
二人は浦上天主堂から被爆したマリア像の破片を盗み集めています。

それに加えて、心と身体に原爆による傷を持つ様々な登場人物が絡み進んでいく物語です。

松村「演劇の原作を、どう映画化していくかは大変な難しさもあり、やりがいもありました」

原作は『マリアの首-幻に長崎を思う曲』という田中千禾夫さんの戯曲。
日本演劇史上に残る名作と言われていて、演劇界では芥川賞と言われている岸田戯曲賞を受賞している作品です。
 

原作のすごさ

「様々な傷を抱えている人たちが戦争の記憶を残そうと、象徴である被ばくマリアを盗もうとする、そこの着眼点に惹かれました」と松村監督。

原爆投下から12年後を舞台設定にしたことが原作者、田中千禾夫さんのすごいところだそうです。昭和32~33年には「もはや戦後ではない」という流行語がありました。

ちょうど日本が高度経済成長に向かって豊かになっていく時代。そこには、まだ戦争の傷を引きずっている人たちや戦争を忘れていこうとする人々がいて、そういうものを振り返らない戦後世代も出てくる時期でした。

松村「そこの絶妙な時代のはざまを舞台に描いて、さらに戦争・原爆のシンボルである浦上天主堂を保存するか取り壊すか。揺れる時期と言う設定がまさに見事だと思いました」
 

今に繋がる登場人物たち

被爆から12年。ゆえに作品の登場人物はそれぞれに原爆の影、傷、そういう戦争の傷を背負った人々。

その一方で、大学生の若者や当時の看護婦といった私たちに繋がる新しい世代が出てくるのも原作の魅力なんだそうです。

映画化にあたって「そういった人物模様をどう描いていくかを大切にしたつもりです」と松村監督は語ります。
 

映画独自の味付け

忍と一緒に暮らす桃園という登場人物がいます。
この映画では田辺誠一さんが演じていますが、一歩引いて時代の流れを見ている設定だそうです。

松村「どうしても被爆のテーマは、被害者側から描くことが多くなってしまうんですが、桃園は、日本も加害者側になったこともあっただろうという視点を演じていただく重要な役どころです。田辺さんは素晴らしく演じていただいたと思っております」

脚本を担当した渡辺善則さんが、原作より一歩引いた加害者としての日本を語るセリフを書き加えたんだそうです。

松村「僕ではなかなかできないセリフを書いてくれたことは、とても感謝している」

小堀「そこのところのやり取りで、僕もふっと戦争の本質を気づかされる部分がありました」
 

監督の熱い思い

映画では、長崎のキリスト教信徒のかつての迫害の歴史。隠れキリシタンの部分も描いているそうです。
そして「雪が降った時に浦上天主堂に来てね」と言うセリフがあり、ついに雪の降るクリスマスの夜。

松村「そこはぜひ見ていただいて、感じていただければ。最後は見てのお楽しみ。ただ一つ言いたいのは、被爆マリアの声を美輪明宏さんにやって頂いたんです。美輪さん以外は全く考えられなかった」

実は美輪さんは長崎県長崎市の出身。被爆も体験し、なおかつ浦上天主堂の被爆直後の風景も見ている今では貴重な証人です。

松村「ですから、被爆マリアの声って言う、ちょっと異次元から来た存在を演じていただく方は、美輪さん以外に考えられなかったです」

小堀曰く、ジャーナリスティックな視線もありながら心に沁みる作品です。
(尾関)
 
小堀勝啓の新栄トークジャンボリー
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2021年08月22日11時02分~抜粋

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