小堀勝啓の新栄トークジャンボリー

「暮らし」のファシズム…コロナ禍を冷静に見つめよう

5月24日放送の『小堀勝啓の新栄トークジャンボリー』(CBCラジオ)では、サブカルチャー論などで知られる作家の大塚英志さんが3月に刊行された書籍を紹介しました。

そのタイトルは『「暮らし」のファシズム-戦争は「新しい生活様式」の顔をしてやってきた』(筑摩書房刊)。

太平洋戦争に突き進む、行き詰まった時代の日本と、コロナ禍で閉塞した現在の日本を重ね合わせて書かれているそうです。

[この番組の画像一覧を見る]

教訓

コーナーはフォークシンガー加川良さんの「教訓Ⅰ」で始まりました。

小堀「まあ、この曲、深い曲です」

アメリカの社会学者、ジョージ・サンタイヤ―という人の「過去に学ばない者は過ちを繰り返す」という言葉を思い出させる、そんな名曲です。

小堀「喉元過ぎれば熱さ忘れるって言いますけども、本当に人間は懲りない生き物です。東日本大震災では大きな被害を出した原発、老朽化原発に次々とGOサインを出してます。あれはまだ10年前ですよ。過去というよりは、あまりにも生々しい」
 

昔と今、似てる?

そんな小堀が選んだ本が、『「暮らし」のファシズム-戦争は「新しい生活様式」の顔をしてやってきた』です。
今回取り上げた理由をこのように語ります。

小堀「上からの押し付けを、あたかも自ら思っているように行動してしまう国民の動き。それを取り込んでく全体主義の巧妙さを具体的に解説していて、読み応えがありました」

「戦争は新しい生活様式の顔をしてやってきた」という副題は、コロナ禍で「新しい生活様式」が取り入れられている昨今、ドキッとするような表現です。
 

一般人が作った戦争へのスローガン

本書では、太平洋戦争へ進んでいく中に生まれた国民へのスローガンが列記されています。
「進め一億火の玉だ」「鬼畜米英」など、国民感情を戦闘に駆り立てていくフレーズが並びます。

その一方で「欲しがりません勝つまでは」とか「贅沢は敵だ」という、柔らかい表現のものもありました。
これらは「非常時だからこそ、みんなで自発的に我慢をしよう」と呼びかけるもので、一般公募で選ばれたフレーズだそうです。

小堀「軍部とか政治家が選んだのかな?と思ったんですが、そうではなく、花森安治、岸田國士といった文化人が選者になってます」
 

誰もが取り込まれてしまう

花森安治は、戦後の進歩的な雑誌『暮しの手帖』の顔とも言える人で、最近はNHKの連続テレビ小説『とと姉ちゃん』に登場した花山伊佐次(唐沢寿明)のモデルとなった人物。
男性ながらおかっぱ頭で、スカートを履いた名物編集長。既成概念にとらわれない自由人として知られた人なんだそうです。

岸田國士は、今でも有名な演劇賞である「岸田戯曲賞」にその名を残す進歩的な演劇人です。
戦時中、多くの芸術家や文化人が、本心はともかくとして戦意高揚の国策表現に協力したのは有名な話です。

小堀「僕は、花森安治とか岸田國士といった人たちは、戦意高揚政策から一番離れた存在だと思っていました。たが、やっぱり戦時中、こういう仕事をしていたんだなーってことをこの本で知ってショックでした。

自分に対する戒めとしても、どんな人間でも非常事態の下では大きな流れに取り込まれてしまうんだな、それがまた人間の弱さだなと思いました。
マスコミに関わる者としては気を付けなければと改めて思いました」
 

恐ろしい人たち

コロナ禍で叫ばれるようになった「新しい生活様式」の中には、仕事や学業、エンタメにおけるライブなど、さまざまなことにオンライン化が取り入れられています。

しかし、まだまだ生(ライブ)の代用品状態。
とりわけエンタメ分野においてはアーティストも受け手も、コロナ禍が終われば元のようにライブやイベントへ出たい、もしくは観たいと願っている人は多いでしょう。

そんな中で「マスク警察」や「自粛警察」が新語として生まれ、ネット上でも同調圧力から来る誹謗中傷が発生しており、こうした希望を持つことに対し萎縮に繋がっていると指摘する小堀。

小堀「どんだけオリンピックが無謀だと思っていても、アスリートに辞退しろ、なんていうのは見当違いも甚だしいです。それを言うならIOCに言ってあげてください。政治家に言ってあげてください」
 

読んで冷静になろう

戦時下においても、現在のヒステリックな世相と同様のことがあったそうです。

例えばパーマの女性を見たら「非国民だ」と言って、婦人会が吊し上げることがあったとか。

互助の名目で各地に作られた「隣組」は、思想調査組織のような実態だったそうで、「隣の人はスパイです。戦争反対って言ってましたよ」という密告が日常茶飯事だったとか。

小堀「この本はそんなこと思わせて、ぞっとするなあ。コロナ禍だからこそ、一度冷静に状況を見つめ直すには格好の一冊です。幸いおうち時間が多いです。じっくり腰を据えて読んでみたらいかがでしょうか」

生活というミクロな視線から、さらに他国の状況というマクロな視線を取り入れるとファシズムというものの重さがより理解できそうです。
コーナーは再び、加川良さんの「教訓Ⅰ」で終わりました。 
(尾関)
 
小堀勝啓の新栄トークジャンボリー
この記事をで聴く

2021年05月23日11時03分~抜粋

関連記事

あなたにオススメ

番組最新情報