2018年1月8日(月)

大矢博子のおすすめ~戌年はこれを読め! 犬にまつわる小説たち

多田しげおの気分爽快!! / カルチャー

『多田しげおの気分爽快!!』、2018年最初の放送となった1/5の特集は「戌年~犬が主人公の小説」です。

「ポン棚」でおなじみ書評家の大矢博子さんにお話を伺います。題して「大矢博子おすすめ~戌年はこれを読め」。
かわいくて笑えるミステリー、バラエティーに富んだアンソロジー、とても泣ける短編集を紹介します。

かっこよくてちょっと間抜けな探偵犬

スペンサー・クインの『助手席のチェット』(創元推理文庫)

これはもともと単行本で『僕の名はチェット』というタイトルで出たものの、タイトルが変わって文庫になったものです。翻訳ミステリーです。

主人公は探偵事務所で飼われている犬。犬の視点で話が進みます。
チェットは私立探偵バーニーの相棒犬です。バーニーのところに依頼が持ち込まれるところから調査の現場までずっと一緒にいます。事件の内容や調査の様子がチェットを通して語られます。

この本で起きる事件は女子高生失踪事件です。娘が帰ってこないので探してという母親が探偵事務所に来ます。その母と一緒にバーニーとチェットが手掛かりを探したりしますが、それをチェットがずっと見ていて様子を読者に伝えます。

が、犬だから途中で気が散ったりします。例えば、バーニーとお母さんとの会話には手掛かりがいっぱいあるはずだけど、チェットは小鳥が気になって仕方ありません。

すごくかわいいけれど、その間情報が入ってきません。だから読者はどうなるの?となる。しかも逆に匂いとかチェットにしかわからない情報もある。だけど、それをチェットはバーニーに伝える方法がない。

そういう風に犬の特性を利用した非常にエキサイティングな話になっています。しかも、チェットのちょっとした動作、習性が、犬を飼っている人にとったら「わかる!」と、犬の動作ひとつがとてもリアルです。

物語自体は正統派の私立探偵小説ですが、大掛かりなアクションがあったり、謎解きも堪能できます。そして、クライマックスにちゃんと犬だからこその見せ場があります。

かっこよくてかわいくて、ちょっと間抜けなチェット。犬好きにも私立探偵好きにも満足できる本です。

バラエティーに富んだ犬にまつわる話

アンソロジー『ワンダフルストーリー』(PHP文庫

アンソロジーとは、ひとつのテーマの下に複数の作家の短編を一冊にまとめたものです。

今回のテーマは「犬」。参加している作家さんは、伊坂幸太郎、大崎梢、木下半太、横関大、貫井徳郎、ですが、この本の表紙では作家名が、伊坂幸犬郎、犬崎梢、木下半犬、横関犬、貫井ドック郎と書かれています。

収録作は大変バラエティーに富んでいます。
たとえば、伊坂さんの短編は犬同士の会話で成立しています。
ある犬が自分の前世を思い出したといいます。
飼い主と僕が散歩している時に、大金を見つけたことがある。それを知った隣に住んでいるおじさんが僕を連れ出して散歩させるけど、そっちには死体を見つけてやったんだ、と言います。

その話を聞いた別の犬が、ちょっと待ってその話きいたことがあるよ。それ最終的に灰を撒いたら桜が咲くんじゃないのと言います。

「実は僕も前世があって」と、その犬も話だしますが、それもまた有名な童話の話です。
この物語は昔ばなしのパロディかなと思ったら、最後にそれらがおもしろい具合に重なって、「え、最後にこうなるの!」という笑いながらびっくりさせるという短編です。

このようにパロディ、コメディ、ミステリー、家族小説と、とても幅広く集められているので、絶対気に入る話があるというアンソロジーです。

素直に泣ける小説

馳星周『ソウルメイト』(集英社)

馳さんはハードな犯罪小説の書き手です。一方、とても犬好きで知られる作家です。犬は単に可愛いがればいいのではない、犬を飼うというのは生涯をみる責任があるんだ、ということをずっと言っています。

これは馳さんが7つの短編を書いて一冊にまとめたものです。タイトルがチワワ、ボルゾイ、柴などすべて犬種です。それぞれの犬と飼い主の関係をテーマにした、ヒューマン&ドッグドラマです。

まず表紙をめくると「犬の十戒」というのが出てきます。犬から飼い主に向けての10のメッセージで、これはもともと英語の作者不明の文章ですが、それを馳さんが翻訳しています。
「ぼくは10年から15年ぐらいしか生きられないんだよ。だから、ちょっとでも家族と離れているのは辛くてしょうがないんだ。ぼくを飼う前に、そのこと、考えてみてよね…」など、犬の視線からみた人間へのメッセージです。

ここできゅんとしますが、この後にはいっている物語はけっして犬を擬人化したものではありません。あくまでも犬で、何を考えているか人間には分からないけど、そこで生まれていく絆が描かれています。

最後の「バーニーズマウンテンドッグ」は馳さんの体験が元になっています。かわいがっていたカ―ターという名前のバーニーズマウンテンドッグが病気になり、余命三カ月と宣言されます。飼い主の夫婦はなんとか治せないかと手を尽くしますが、最終的にはカーターが大好きだった軽井沢の別荘に移住して、最期の時まで一緒にすごすという話です。

決して大逆転のドラマがあるわけではないですが、その亡くす時の気持ちは家族を亡くすのとまったく同じに描かれていて、こういう感情なんだなと自然に伝わってきます。必ずその時がくるという覚悟をしなくちゃいけない、という飼い主の心情にとてもリアリティがあります。

ペットを飼うのはいいとこ取りはできない、最後まで看取ってこそですよというのが、伝わってきます。
この話を読んで、最初の「犬の十戒」を読むと、最初はきゅんするけど今度は泣けます。

愛犬家にはたまらない本の数々ですが、そうでなくて面白そうで、ぜひ、読んでみたいですね。
(みず)

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