2017年11月9日(木)

音読みの謎…「チ」が濁ると「ジ」になるものがあるのはなぜ?

丹野みどりの よりどりっ! / カルチャー

とあるリスナーから番組宛てに、こんなおたよりが届きました。

「漢字の『地』について、音読みで『土地』や『地域』など『チ』と読みます。他にも『地面』や『意地』など『ジ』とも読みます。コレって『チ』が濁ったとしたら、『チに濁点』が正しいような気がするんですけど、『シに濁点』なのはどうしてでしょうか?」

そこで11/7の「これってキニナル」では、「ヂとジの違い」について取り上げました。
このキニナルについて今回は、筑波大学の松崎先生にお話を伺います。聞き手は丹野みどりです。

「地面」を「ヂ」で表記しない理由

松崎先生は日本語音声学や日本語教育学を専門に研究をしていらっしゃって、いまは外国人日本語学習者の発音を良くするための教え方や学習ソフトの開発をしているそうです。

なぜ「地面」を「ヂ」と表記しないのでしょうか?松崎先生に伺いました。

「地面と読んだ時ですが、そもそもこれは『チ』が濁るわけではありません。漢字の『地』という字の音読み、『チ』と『チの濁点』は全くの別物で、もともとこの漢字には2つの読みがある、と考えるとよいでしょう」

「へぇー」と驚く丹野。「ではなぜ、『地面』は『シに点々』なんですか?」と話に身を乗り出して問いかけます。

松崎先生によると、昭和61年の内閣告示『現代仮名遣い』に従うためとのこと。
現代の日本語には「チの濁点」と「シの濁点」に発音の区別がなく、そのため、現代日本語では基本的には「シに濁点」で表記することにしているそうです。

「現代は基本的には『サシスセソ』の『シ』に濁点で表記することが多いということなんですね」と丹野は話をまとめます、が…。

「ヂ」と「ジ」の使い方

「先生、今浮かびました」

唐突に何か思いついた様子の丹野。

「『底力』というのは、『チに点々』ですよね?」

確かに、「底力」は「チに点々」です。なぜなのでしょうか?松崎先生はこう答えます。

「『底力』を『底』と『力』に分解した時に、『底力』という言葉の中に『力』という意味が感じ取れると思います。このような場合、表記としては『チに濁点』を使います」

話が面白くなってきた丹野。調子づいてさらにこう尋ねます。

「じゃあ稲妻は?」

これに対して先生は「ちょっと難しいんですけど」と前置きした上でこう答えます。

「稲妻の場合、『稲』と『妻』に分解した時に、『妻』の意味が『稲妻』の中にあるとは感じられないと思います。これはもう「稲妻」で1つの語になっていると考え、基本的には『スに濁点』で表記します」

「確かにー」と丹野はすっかり感心してしまいました。

「つまり言葉を分解したときに意味が通る場合は『チに点々』になって、分解したときに意味をなさない場合は『シに点々』を使うということですね」と得意げに話をまとめます。

ただ、このような意識には個人差もあるため『現代仮名遣い』では「なお書き」に「じ」「ず」で書くことを本則とし、「いなづま」のように「ぢ」「づ」を用いて書くこともできるものとする、としているそうです。

他には、同じ音を重ねて言う場合があり、例えば「服が縮む」「話が続く」のような場合は「チに濁点」「ツに濁点」を使うということです。

ここでまた一つ丹野が思いつきます。

「先生、濁点といえばですね、お尻にできる痔、あれはどっちなんでしょうか?街とかで『チに濁点』でよく見かけるんですけれども」

この問いに対しても、先生はすんなり答えます。

「『痔』など、それ単独、あるいは語頭にくるものについては、表記としては基本的に『シに濁点』を用います。

「へぇー」と丹野は驚きのあまり、ちょっと声がかすれてしまいました。

企業などが『チに濁点』を使うことは自由で、『現代仮名遣い』でも、「新聞雑誌や放送などの仮名遣いのよりどころ」を示すものであって、「専門分野や個々人の表記にまで及ぼそうとするものではなく」と、断っているそうです。

「ヂ」と「ジ」の変遷

松崎先生によれば、古典作品の表記をみるとわかるように、昔は「チ」や「ツ」に濁点のある言葉と「シ」や「ス」に濁点のある言葉がそれぞれあり、両者には発音上の区別があったと考えられているとのこと。

それが、室町時代の後期から、発音が同じになり、表記が混同され始めました。そこで、歴史的仮名遣いを現代語音による表記に改めるための拠り所として、昭和21年に『現代かなづかい』が内閣告示され、表記が「シに濁点」や「スに濁点」に統一されたそうです。

昭和61年に新たな「現代仮名遣い」が内閣告示され、現在の教科書や公用文書、新聞・雑誌等の規範は、昭和61年版の本則に従っているそうですよ。

皆さんも身近な言葉の「ヂ」や「ジ」、「ヅ」や「ズ」について考えてみてはいかがでしょうか?
(ふで)

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