2017年9月23日(土)

江戸時代にもバブルとロスジェネが存在した!名著『御松茸騒動』

多田しげおの気分爽快!! / カルチャー

『多田しげおの気分爽快!!朝からP・O・N』、木曜日の「暮らしに鉄分」は書評家・文芸評論家の大矢博子さんが話題の新刊を紹介する「私のポン棚」。

9/21の放送で取り上げたのは、直木賞作家・朝井まかてさんの『御松茸(おまったけ)騒動』(徳間書店刊)。
そのタイトルに負けず劣らず、ワクワクハラハラな内容のようです。

御松茸同心への左遷

この『御松茸(おまったけ)騒動』は、もともと3年前に出版された小説ですが、今月文庫になって再登場。
名古屋を舞台にした時代小説です。

時は江戸。主人公は19歳の尾張藩士、原小四郎。
父親が江戸詰めであったので江戸生まれ江戸育ちで、尾張には帰ったことがありません。

小四郎はかなりデキる青年なので「将来自分は藩政の中枢を担うんだ!」というプライドを持っていました。
勘定方の上司は仕事ができないやつばかり、自分がいないとこの部署は回らないと考えているような青年です。

ところが、ちょっとした事件のとばっちりを受け、小四郎は尾張に戻って「御松茸同心」をやるように命令されてしまいます。
いわば、体のいい左遷です。

松茸の産地偽装

当時、松茸は尾張藩の名産。
領内で松茸の取れる山を藩の管理下にして、特に出来のよいものを将軍に献上したり、他の藩への贈答品に使ったりと、松茸はとても大事な名産品でした。

ところが、最近は不作続き。
それを解消するために小四郎が「御松茸同心」に任命されたという訳です。

御松茸同心といっても、いわば山回り。
同じ尾張藩の仕事でも、城内でできる仕事とは大違いです。
イメージとしては、現場に飛ばされたようなもの。

すぐに結果を出して藩の中枢に返り咲くんだ!と思いつつ尾張に戻った小四郎でしたが、現実はそう甘くはありません。

尾張では、不作の松茸の穴埋めのために他の藩からこっそり松茸を買い、それを尾張産として江戸に送るという不正行為が行われていたのです。

これを聞いて「メニューに嘘が書いてあるようなものですね」と多田しげお。
現代でも度々問題となる、産地偽装の走りでしょうか。

さらに、松茸を購入したり送ったりする費用が、藩の財政をかなり圧迫しているということが判明します。

どうにか現状を打破しようと試みる小四郎。
果たして松茸の不作は改善するのでしょうか、というお話です。

松茸の採れる山、現在のどのあたり?

この小説の読みどころは、大矢さんいわく「尾張の松茸産業の様子がすごくよくわかる」というところなんだそう。

ここで、多田が素朴な疑問をぶつけます。

「尾張の松茸のできる山ってどの辺のことなんですか?」

「当時、松茸が採れる藩直轄の山は“御林”と呼ばれていて、小四郎が担当しているのは植田御林と上野御林。これは、現在の天白区の植田から八事山のあたりにかけてと、千種区の東山公園のあたり。ここで松茸が採れてたんですって!」

名古屋市の東南部にあたるエリアです。

多田「もちろんね、江戸時代ですから。街の中心部はお城の周りだけで」
大矢「この辺は本当に山ですもんね」
多田「で、その辺では松茸がいっぱい…」
大矢「採れてたんですって」

「へー!」と感心する多田と桐生順子。

小四郎の成長を描いた物語

もともと勘定方のホワイトカラーである小四郎。
虫も苦手で、山での現場仕事に悪戦苦闘します。

実際に松茸狩りをする村人にしてみれば「今度の同心さんは使えねぇな」といった雰囲気でありました。
小四郎のプライドはズタズタです。

大矢さんが提唱するもう一つの読みどころとしては、実はこの小説は「バブル世代とロストジェネレーション世代の話である」というところ。

その40年前、尾張藩主が徳川宗春だった頃は、八代将軍吉宗の質素倹約策に対抗するかのように「尾張はとにかく楽しいことやればいいじゃーん」(多田)という時代でした。

当時松茸が流行して一大産業になったために、その時のやり方をバブル世代のオヤジたちはずっと変えず、どこかのんきに続けていたのです。

産まれた時から不況であった小四郎は「なんだこのオヤジたちは!」と、何とか変えようとしますが、地元の村人たちがいまだに宗春公を非常に慕っているのを見て、徐々に小四郎の考え方にも変化が生まれていきます。

つまりこの小説は、小四郎の成長物語でもあるのです。

あの『半沢直樹』シリーズにも通じる「バブル世代とその後の世代の確執」という隠しテーマがあり、ふんだんな秋の味覚もあり。
楽しいけれどちょっとホロリとさせられる。

『御松茸騒動』は、そんな時代小説です。

秋の夜長、江戸時代の尾張藩に思いを馳せてみませんか?
(minto)

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