2017年4月4日(火)

小堀勝啓の『キャデラック・レコード』レビュー

小堀勝啓の新栄トークジャンボリー / カルチャー

エンタメひと筋40年ちょっと、『わ!WIDE』『ミックスパイください』をはじめ、名古屋におけるカルチャーのエヴァンジェリスト・小堀勝啓がお薦めの映画や名盤、珍盤奇盤を紹介いたします。

今回紹介するのは、ちょっと前、2008年に公開された『キャデラック・レコード 音楽でアメリカを変えた人々の物語』です。

古き良きアメリカのエンタメ界

タイトルの「キャデラック・レコード」、これはシカゴに実在したR&Bのメジャーレーベル「チェス・レコード」の愛称です。
R&Bとはリズム&ブルースと呼ばれる音楽で、今でこそ凄い数のリリースがありますが、当時は異色中の異色な音楽でした。

この愛称、オーナーのレナード・チェスが自分のレーベルで成功したアーティストに、キャデラックをプレゼントしてることから付きました。キャデラックという車は、1950年代後半から1960年代では大成功の証(あかし)なんです。アーティストたちはそれに乗ることを目指して頑張るんですね。

当時のアメリカでは、同じバスにも乗れない、同じレストランにも入れないというほどの人種差別がまだ残っていました。そういう時代に、このレナード・チェスが「これは凄い音楽だ!」と黒人音楽を紹介してビッグマーケットを築き上げて今に至るわけですが、実はこのオーナー、白人なんですよ。

人種差別を超えたポーランド人

レナード・チェスという人はポーランドからの移民なんです。
今でこそトランプさんが移民禁止とか言ってますが、そもそもアメリカを作った人たちはみんな移民なんですよ。

当時ポーランド人は「プア・ポー(貧しいポーランド人)」などとメチャクチャ言われて差別を受けていました。
レナードは自分が差別されていたために黒人への偏見もなく「いい音楽は全部俺が紹介する」と言うウェルカムな人なんです。

映画冒頭では歌自慢の黒人が妻と農地を耕してるところへ、レナードとは別の白人がクルマでやってきます。夫婦が白人が来たというので不安がるんですが、その白人は音楽の研究をしている人で、この黒人に「歌ってほしい」と頼みます。
言われるがままにギターを弾いて歌うこの人こそ、後に大スターとなるマディ・ウォーターズ。

このマディ・ウォーターズ、日本ではアメリカほど評価が高くないんですが、R&Bの大御所で、ヨーロッパで非常に人気があります。ローリング・ストーンズやビートルズも尊敬するという人なんです。
そのうちマディは街へ出て歌いたいと思いはじめ、ギター1本持って出掛けていきます。
そして街で歌っていたところレナード・チェスと出会います。

潰れたライブハウスを買い取って拠点としていたレナードは、ポーランドの富豪の娘と付き合っていて、成功者になりたいという野望を持っていました。彼はそのライブハウスへマディを招きます。
最初は白人であるレナードを警戒するマディですが、やがて意気に感じてコンビを組み、これが人気を呼ぶことになります。

チェス・レコード隆盛の影で

ところがこのライブハウスが火事で丸焼けになります。レナードはこの時受け取った保険金で「チェス・レコード」を設立するんです。変な言葉ですが焼け太りなんですね。火事自体怪しいんですが真相はわからない。
以降チェス・レコードはブルースハープの名手、リトル・ウォルターなど、様々な人を抱えていきます。

ここで登場するのがアメリカのラジオDJ。ひとりで曲をかけながらしゃべるというあのスタイル。
ラジオというメディアを通じて、チェス・レコードのミュージシャンは黒人のみならず白人にも人気を博すようになります。
引き抜きもやり、成功した人にはあのキャデラックをポーンと与えるわけです。

それでキャデラックで店に乗り付けた彼らを待っていたのは、白人からの差別。盗難車と思われボコボコに殴られてクルマもメチャクチャにされてしまいます。
血の気の多いリトル・ウォルターは拳銃まで持ち出しますが、レナード・チェスに「また買ってやるから頭を冷やせ」となだめられます。

そんな中、ひとりの女の子がスカウトされます。
彼女の名はエタ・ジェームス。この作品ではビヨンセが扮していますが、実に役がハマっています。
エタとレナードはそのうち恋仲になっていくんですが、ふたりの間には不倫、人種という壁が立ちはだかります。

ロックンロールは存在しなかった?

そうしたドラマの傍らで、チェス・レコードからは先日亡くなったチャック・ベリーなど大スターがたくさん登場します。レナードがいなければロックンロールもなかったかもしれません。
作中でヒョロッとした長髪のバンドが登場するんですが、これが若き日のローリング・ストーンズというエピソードもあります。
やがて黒人音楽人気に翳りが出てキャデラックを買えなくなったり、アーティストが離散していく中、レナード・チェスはどうなってしまうのか…

そこには、胸が熱くなるショービジネスの世界が描かれています。
この作品、DVD化もされているので、未見の方はぜひご覧ください!

アーカイブス

同じカテゴリー

|
facebook twitter hatebu line